2000年度
日本学生オリエンテーリング選手権大会
インカレガイド(一部)
2001年3月4日
このページは2000年度インカレの際に発行されるインカレガイドのうちカラーで皆さんにお伝えしたいページの部分を掲載するものです。
 
 
 
RMO-サービス 山川克則

今回、インカレガイドの原稿を書くにあたって、私の専門である「地図」という観点から書いてみたい。

 今では必ずしもそうとは云えなくなってなってきたが、少し前までは確実にインカレは日本のオリエンテーリング界のリーダーシップを取っていた。で、最近はインカレのレベルが落ちたということではなくて、インカレ運営を卒業して県協会なりでより大きな対象を相手に活躍する人が増えてきて、相対的に学生だけを相手にするインカレの位置付けが全体の中では最大のものではなくなってきた、と云うことだと思う。インカレも昨年の日光以来一般参加の敷居を低くして、出来る限り多くの人に参加していただけるようシフトしてきている。けっして、インカレの質自体が下がったわけではないし、その準備のノウハウや各プロセスは、人材の拡散と共に各方面へと浸透していっている、ということであると思う。
 

 最近良く云われる問題は、加盟員の減少、オリエンテーリング大会参加者数の減少である。それは、大会の財政面を大きく圧迫するほどの問題となってきた。インカレにおいても、例外なくこの問題は大きく認識しなければいけない問題である。そもそも、インカレがインカレたらしめていること、他の大会と比して圧倒的に手間ヒマかけていること、それは地図・コースに関してである。調査−試走−検討及び修正指示のサイクルが他のどの大会よりも回数が多く詳細にわたっている。また、第10回以来プロフェッショナルの導入という点でもインカレは先駆けであった。財政面という点では、これ以上参加者減が進むと、このインカレたらしめている部分にも、リストラのメスが入らざるをえなくなることが十分考えられる。そういうことも含めて、結局は今後の道筋は加盟員自らが選択していく問題ではあるのだが、ではその加盟員がどのように選択していったら良いのか、その材料を明確に与えるのは私を含めたOBの仕事と考えている。で、その為の最新のネタを以下に書いていこうと思う。これらのことを、今後も維持いや発展させていって欲しいと考えるならば、加盟員諸君もきびしい時代ではあるが、これ以上参加者数を減らさないよう努力を惜しまないで欲しい、ということになると思う。そして、最新のネタであるだけに、本年の愛知インカレへの絶好の参考資料となること請け合いの内容でもある。地図調査した本人が解説しているのだから、試験官が参考書を書いているようなものである。これが一部の非公式メディアに流れたら大問題であろうが、ここはインカレガイド。公式な発行物であるから、まさに読んだもの勝ちの情報をお届けしよう。そして、将来のインカレについてもどうあるべきか一緒に考えていただければ幸いである。


 
 題材を、すでに配布済みのモデルイベント地図に求めて、その前身である公認作手大会の地図「曲り峠」と対比しながら、どのように地形把握をしていくのか解説していこう。誤解のないように断っておくが、公認三河大会はそれなりの評価を得た大会であり、決してボロい大会という評判は聞こえてこなかった。でも、インカレの調査となればこれくらいこだわって作られている、ということでもあるし、これくらいの地図を作成できる人材というのはまだまだ日本ではホンの一握りの手にかかっている、というのが実情なのである。


 

            図1                    図2

(以下、左の図が「曲り峠」、右図がインカレモデル地図「大野原」である)

 私が最初にこのテレインに入って、湿地の北側の小径を歩いていて、「うっ!コンタが足りない!どうしよう?」この感想から始まった。結局、亀山城址を大きく巻くように一本のコンタを大幅に書き換えたのであるが、こういう場合うまくコンタが整合するかどうかの不安がつきまとう。まあ、この場合ガケがあるので最悪ガケにぶつけてごまかしてしまえるとは思っていた。実際、モデルイベントで現地へ行って自分の目で確認して欲しい。図1の3番道×の北を切るコンタにどれほどの意味があるのか、そして図2とすることによって湿地を巻く斜面がいかに現地の形状を良く伝えているかを。もうひとつ、中級者でもありがちなこととして、むやみなガケ使用はかえって地形を正確に伝えることはできない、ということを認識して欲しい。多少ガレていても人が場所を選んで通れる限りは極力コンタで書くべきである。図1では枝沢を表現するスペースをつぶしてしまっている。また、城跡の表現にしてもコンタで書けるものは、そうすることによって、場所による高低差や形状をより生き生きと表現することができる。囲いの土手、見晴らし台、濠などが図2ではすべてコンタで表現されている。もうひとつ、切り通しという記号は早く駆逐するべきである。これらは両側ガケで書けば事足りる。もちろんガケで書く以上は実態より大きく書くことになり、回りをスポイルすることになるが、そこはうまく調整をはかるのである。



 
 
            図3                  図4
 緩くて広い沢から湿地の方に落ち込んでいくのではなくて、湿地横の段丘につながっていくことを理解しよう。また、北西の小径であるが、切り通し状に落ち込んでいくことを表現するほうが、湿地脇をガケ(この程度のガケはひとが十分通行できるし敢えて書くまでもない)で書くことよりより重要である。
また、多くの日本の地図の場合、「植生界」について誤解が多いように思う。まず、現地でみて明確に植相の違いがみ見てとれないといけないし、だからこそ、どこからどこまでと明確に規定する線上特徴物でもない。図4のように特に違いが明確な部分にのみ植生界を打つ場合もあるし、間隔をおいて繋げるようにして(不明瞭な小径のように)ところどころ明確に見て取れる植生界というものも存在する。これらは、クラシック・リレーの地図でも多用されている。



 


 
            図5                    図6

 左上の沢が公認三河大会のスタート地点だったところ。その一本東の主沢がズタズタに歪んでいた。そのため、図5では、実際には無い沢が書かれてしまうことになっているし、その歪みはスタート沢にまで及んでいる。また、一本のコンタの処理によってここでも実際もっと緩い地形が急な斜面で書かれてしまっていることも理解しよう。もうひとつ注目なのが、実は必ずしも「等高線」として引かれているわけではないということ。ISOMでも地形を的確に表現することが主眼であって、ある程度(25%くらいだったかな?)の誇張は許されている。コントロールの丸にかかっている穴の南側のくいこんだ沢などもこの誇張によるものだし、湿地の両側の段丘面にも誇張は行われている。但し、そこに1本のコンタも入れないというのでは、周りの急斜面の形が大きくそがれてしまうことになり、大きな段丘上に1本コンタを入れている。ただ、このコンタによって沢と読まれてしまうのは避けないといけない。湿地南西の段丘では穴があるのを幸いにコンタを切ることによって処理しているが、湿地東側の段丘では工夫のあとが読み取れるだろう。ごく緩くコントロールの尾根に向かって線がつづくことを処理しているのであるが、この緩いコンタによる処理については、海外から呼んだマッパーより日本の優秀なマッパーの方がより優れた技量を持っていることを今回認識した。(海外マッパーによる日本の地図を見る機会も多くなってきたが、何かなじめないものを感じた方も多いでしょう。今回のインカレの地図に関しては私と中村弘太郎君で出来る限りもっと判り易い表現に書き換えてある、ということです。そして、この面でも本当に大変な苦労をして作り上げられています)
 



 

 図7         図8
図7−8では、人家(寺院)に落ち込む沢の形、

 

図9            図10
図9−10では、小さな沢と広い沢、出っ張った尾根と緩い尾根それらの連関性

図11            図12
図11−12ではここは明確な沢や分岐というわけではなくて、古代の田んぼ跡をどう判りやすく表現するかという問題

 図13         図14
図13−14では、緩い沢をさらに緩いイメージで書く場合の補助コンタの使い方、これらの違いを味わっていただけたらと思う。まだまだここでは取り上げなかったが、他にも各自で色々設問を設けて、インカレの地図というものにもっともっとイメージを膨らませていって欲しい。モデルの地図は地図調査者の苦労のホンの一部でしかない。君達の汗と熱意を是非インカレという舞台で十二分に発揮できるよう頑張っていただきたい。



 
 尚、この続編をインカレ本番の地図において行おうと思う。

 クラシック女子WEの試走コースをネタに、日本のトップランナー、金並由香と落合志保子のルートプラン、その結果、加えてそれを受けての地図修正、これらの各ステップにはランナー側もマッパー側もより良いパフォーマンスを追求していく為の大きなカギが隠されているように思ったからだ。彼女ら二人にはミスも含めて出来る限り詳細に現場でのプランと行動を述べてもらい、地図との整合をどうとっていくのかを分析してみたい。

 Orienteering.comのトップページもしくはクラブカップの枝にRMOサービスの調査日記というページでも設けて、インカレ後に閲覧できるようにしたいと思いますので、乞う、ご期待あれ。また、この文章もインカレガイドだけでなく(印刷物は宿命的にモノクロになる)、学連ページからカラーで閲覧できるようにしたいと思っています。