モデルイベントとは、レースに先立って本番と同様の基準で書かれた地図、同様に設置されたスタート地区や、コントロールフラッグなどを体験できるイベントだ。日本チームは、フォンテーヌブローの森に入るのはもちろん初めてだし、MTB-O専用に作られたマップで走ったこともない。それらに対応するために今回のモデルイベントは重要である。しかも、いろいろ訳あって(めんどーなので書かないが)翌日のロングディスタンスで使用する地図はモデルイベントと同じなのだ。
フォンテーヌブロー周辺の既存のオリエンテーリング地図は日本にいたときにすでに目にしたことがあった。基本的にこのあたりはかなり平坦だ。そして、取り残されたかのような丘がポコポコと点在し、その周辺では急斜面が見られることが多い。日本にいる限りはほとんど見ることのない地形だ。丘の上は、下の平坦部分と同様に平坦に削り取られていて登ってしまえば平らになる。そして、テライン全体としては水系がほとんど存在しないくせに、丘の上に湿地帯が広がっていたりするのだ。まったく意味不明である。
こう書くと見当がつくと思うが、ここのテラインは、どこが高くてどこが低くなっているのか、一見してさっぱり分からない。よくよく読んでみても、やっぱり分からない。ある程度は現地に行って判断するしかないのだ。レース中も登りだと思ったら下りだった、ということが多発するに違いない。この1日のモデルイベントで、どれだけ地形に慣れることができるか・・・
日本チームはまず二手に分かれて、地図を読みながらグループでテライン内を軽く見て回った。
「地形は結構誇張して書かれていて、等高線1本くらいの微妙なのは走りながらではわからんなー」
「植生はかなり大雑把だね」
「倒木の存在までまで地図に書かれているのか!」
そして、誰もが強烈に感じたのは「走りが重い!」ってこと。
フォンテーヌブローの森の道は、基本的に砂がちである。道の走りやすさは、「Bon(よい)」、「Moyen(普通)」、「Mauvais(悪い)」の3段階に分かれて書かれているのだが、Moyen以下になると場合によってはタイヤをとられるバサバサの砂地で、平地を走るのでさえかなりのパワーが必要なのだ。まるで競馬場のダートコースを走っているような感じだ。実際道上にはしばしば馬の落し物があってうかつに前を見ずに走っていると衝突の危険がある。(もちろん競馬場にバイクで侵入したことなどはない。)道の選択にはかなり気を使う必要があると感じた。
その後は、各自レーススピードを意識してコースを走ってみたり、タイヤの回転方向や、空気圧などを変えてセッティングの調整をしたりした。
レーススピードでは、走りながら地図を読めるポイントは少ない。路面状態のいい登りか、平地であえてスピードダウンしたときくらいしか、今の私の実力ではしっかり地図を読めない。また、この森の中は妙に道が発達していて、放射状に道が6,7本も伸びているような交差点がたくさんあり(ちなみに大会中の最大は12叉路!であった)、次の行動を予測せずに交差点に突っ込んで、立ち止まったりしたら、「???」ということになる。
作戦は決まった。コントロールと路面状態のいいところで、しっかり地図を読む。やばくなったら止まる。次の行動を常に頭に描きながら、あとは気合で走る。・・・当たり前か?
朝、起きてみるとどんよりと今にも雨が降り出しそうな空だった。そして、寒い!。Tシャツ一枚では外に出られない。イベントセンターからちょっと離れた今日の会場に日本チームが到着するころは、冷たい雨が降り出していた。
訳あって、予選のタイムは決勝のスタート順の決定に使用されるだけで、成績そのものには関係ないことになっていた。その代わりに、トップの200%を越えた選手は失格となって翌日の決勝を走ることができない。
この事実とこの天気に、情けないことに僕のやる気はちょっとそがれてしまっていた。通過しさえすればあまりスタート順にはこだわっていなかったし、さすがに200%を超えることはないと思ってしまったからだ。しかしこれは世界選手権。そんなに気の緩んだ状態で通用するほど甘いものでもないことを後で思い知ることになる。
会場は何かのグラウンドで、日本チームは選手では一番乗りのようだ。預けたMTBがすでに並べられているので、内山は仕事で各国選手のタイヤの調査を、僕は個人的興味でマップホルダーの調査をはじめる。世界選手権といえども、マップホルダーは自作と思われるものがほとんどだ。昨日ハンドルに洗面器のようなものをつけたバイクをみつけて、水を張って磁石を浮かべるのか?、と笑っていたがそのマップホルダーは洗面器のフチ全体でマップケースを支えかつ適当な回転抵抗を与えていて、なかなかよくできていた。こういうアプローチもあるんだな。
結局雨はやむどころか強くなるばかり。スタート時間はバラバラなので、選手はそれぞれスタート地区に向かう。僕のスタートは11時ちょっとすぎだ。落合監督の情報で、スタートは街中で、序盤は街中を走ることを知る。何でそんなコースにしたのかな、と思いつつ、僕もスタートへ。
スタートしてしばらくは街中だった。しかも、どうやら交通規制などしていないようで、交差点などで係員が車を止めている。ドライバーのマナーがよく、警察もおおらかなのだろう。日本では考えられないことだ。
しかし、この街中を走る部分はすごくきれいだった。狭い石畳の坂を登っていくところなど、カメラがあったら立ち止まってしまいたくなるようなところで、街中スタートにしたのはこれを見せたかったのだろうとちょっと納得する。しかし、景色に見とれて簡単なナビゲーションミスをする。
まもなく森に突入。いきなり上り下りを読み違えて面くらい、リズムに乗れない。ただでさえ重たい路面は、雨に濡れて激重になっていた。レース序盤にして重馬場にあえいでいると、大柄な外国人選手が、その路面をぐいぐいと重いギアを踏んで抜かしていく。結局予選は気合の入る場面のないまま、だらだらと走って終わってしまった。しかももっとショックだったのは、あんまり足を使っていないつもりだったのに、ゴールしてみたらかなり足にきていたこと。
日本チームは、大北がわりといい走りをしたようだが、全体として「とりあえず予選は通った」状態の厳しい結果であった。僕自身も、決勝では結果は出せなくても、少なくとも今日のような気の抜けたレースはしまいと、気持ちを切り替えて挑もうと誓った。
予選リザルト
7月4日
MTB-WOC ロング・ディスタンス競技 PROLOGUE
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男子 ( 28.000 km 17コントロール) 地図1 地図2
1 | GLOR Herve | FRA | 1:21:35 |
2 | GILLMANN Jeremi | FRA | 1:23:06 |
3 | PERRIN Gilles | FRA | 1:24:17 |
100 | 大北 洋平 | JPN | 2:02:21 |
108 | 渡辺 瑞樹 | JPN | 2:09:21 |
109 | 相川 創 | JPN | 2:09:48 |
115 | 内山 雅文 | JPN | 2:40:26 |
女子 ( ? km 12コントロール) 地図
1 | COUPAT Laure | FRA | 54:51 |
2 | BORNHAK Antje | GER | 59:26 |
3 | FINANCE Caroline | FRA | 1:02:32 |
64 | 細谷 みさき | JPN | 1:30:24 |
66 | 小寺 喜子 | JPN | 1:34:00 |
69 | 藤原 瑞穂 | JPN | 1:41:05 |
70 | 伏見 幸希子 | JPN | 1:43:33 |
予選後の夕方にオープニングセレモニーなるものが行われた。どんなものかと思っていたら、町の中を練り歩いて最後に広場に集まって開会式?のようなことをするらしい。パレードのスタートは、17時と聞いていたが、17時にはまったく始まる様子がない。かなりアバウトである。日本チームの女性メンバーが友人と観光をしていた藤原を除いてそろっていなかったから、ちょうどいいか
30分以上遅れてパレードはスタートした。結局女性メンバーがホテルから戻るのは間に合わず、藤原の友人にも参加してもらう。国ごとに、国旗を持って街中を走っていくのだが、やはりまったく交通規制はなし。それでもドライバーはおとなしく行列が通り過ぎるのを待ってくれている。なかなかできる体験ではないので、面白かった。
やがて行列はメリーゴーランドのある広場に到着。しばらくして女性メンバーも全員そろった。しばらく要人と思われる人の挨拶が続くのだが、あたりまえだがフランス語でまったくわからない。しかも話が長い。暇なので失礼と思いながらも写真をとったりして話をやり過ごした。日本チームの○見というメンバーは、もっと失礼なことに、あちこち動き回り、他国の列の間に入って写真を撮りまくったり、やりたい放題であった(笑)。
最後に国旗を集めて記念写真。うん、世界選手権だねえ。