第13回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

小泉 成行
2002年度筑波大学卒

報告書


内容

  1. 目標設定
  2. トレーニング
  3. 強化合宿・トレーニングキャンプ
  4. レース概要
  5. 全体を通して
  6. 今後に向けて

目標設定

富士でのWCが終わり、国際大会に出てみたいという気持ちが生まれてきた頃、フランスのユニバーから帰ってきた選手から「ユニバーは日本選手でもある程度結果が残せる大会」という話を聞いた。出るからには結果を残したい。前回大会での日本選手の話などから、上記のような目標が日本選手の狙える位置なのだろうと想像した。

しかし、当時の私にはその目標を達成するにはどれくらいの力が必要なのか全くわからず、目標と言っても現実的な目標とは言い切れないものであった。とにかく2年後にユニバーに出る年代のトップになっていなくてはユニバーには出られない。まずはその位置にいることを目標にトレーニング計画を立てた。

セレクションレースでは結果は出せなかったが、過去の実績を評価され出場できることになった。推薦という形にはいろいろな思いがあったが、2年前からユニバーに出ることを目標にし、その過程で残してきた結果が評価されたと考えると、自信を持って大会に向かうことができた。

その時点で改めて最初に挙げた目標を検討し直した。ショート予選通過は男子全員の共通目標にもなっており、コーチという第3者の目を通してもその目標を達成することができる可能性があることを確認できた。クラシック120%以内というのは、出場選手にも左右されるが、少々きついかなという感があった。しかしこの2つの目標に対して、何がどれだけ足りないのかということまでは想像できなかった。この時点においても目標に対してどれだけの力が必要かという具体性にかける部分があり、それが本番での失敗に少なからず影響を与えてしまった点からも、目標に対してもっと具体性を出すべきだったという反省がある。

トレーニング

トレーニング計画は、3ヶ月に一度現状を確認して、トレーニング量の増減や内容の変更などを検討した。トレーニング周期の単位は1週間とし、以下のようなメニューを基本として行った。

表.トレーニングメニュー
2000年度 2001年度 2002年度4~6月
レストorジョグ レストorジョグ レストorジョグ
長距離走(15~20km,60~90分) LSD(15~25km,60~120分) LSD(20~30km,90~150分)
ジョグ 正置走,不整地走 直進練習
スピードトレーニング
例.
  1. インターバル(1000m*5)3'30/km
  2. ペース走(6000m)3'50/km
スピードトレーニング
  1. 3'25/km
  2. 3'40/km
スピードトレーニング
  1. ①3'15~'20/km
  2. ②3'30/km
不整地走 正置走,不整地走 正置走,不整地走
正置走 不整地走 オリエンテーリング
オリエンテーリング オリエンテーリング オリエンテーリング

長距離走…長い距離をジョグより速いペースで走る,正置走…地図を持って現地と対応させながら走る

体力については、外国選手どころか、他の日本選手と比べても体力がないことが明らかであったので、まずは体力づくりをメインにトレーニングを始めた。週1回の長距離走・LSDとスピードトレーニングを中心にして、それ以外の日には軽めのジョグを行った。そのときになるべく不整地を走ることを意識するようにした。また、オリエンテーリングの基本技術を体に覚えさせるため、正置走を行い、正置・歩測・予期などを正確に行えるようにした。このような基本技術の熟練こそオリエンテーリングの上達にもっとも必要なものと考えていたので、この練習は学年が上がることに時間を増やして練習するようになった。

机上トレーニングとしては、レース毎にアナリシスを書き、オリエンテーリングに必要な要素を一般化して考えるようにした。それをもとにプランニング練習をし、レッグに求められる課題とその対策をしっかり意識するようにした。

以上のようなトレーニングの結果、体力面では着実なレベルアップができた。しかしユニバーが終わった今、まだまだ足りない部分が多いことを痛感した。特に、長い距離を追い込んで走るというトレーニングをあまりしていなかったため、クラシックでは終盤にまったく集中できなくなってしまった。どんなに体力がついたと思っても、それで満足してはいけない。また、定期的にタイムを計測して体力の推移を数値で把握すれば、より向上心を持って臨めるだろう。

技術に関しては、正置走などによって基本技術の熟練度は増したが、練習では軽いジョグのペースで行うことがほとんどで、レーススピードで行うことが少なかったため、追い込んだレースの中では綻びが出てしまうことがあった。日本では、それでも良い結果として出てしまうので、問題になることがあまりなく、課題として認識しきれなかったが、ユニバーではそういうミスが大きな差になっていくことがはっきりした。今後は、追い込んだ状態で基本技術を行えるようにすることが必要だ。

強化合宿・トレーニングキャンプ

強化合宿の内容は主に追い込んで走るというテーマのもとで行われ、短い距離のメニューをしっかりこなすということが求められた。このテーマは、私に足りないものを補うために大変役に立つメニューであったはずだが、前節で述べたように、追い込んでレースするという課題への認識の甘さから十分活用できなかった。

ブルガリアに入ってからのトレーニングキャンプでは、疲れを残すことを嫌って、あまりたくさん走ることも、追い込んで走るということもなかった。それはたしかに疲れを残さないという点では効果があり、大会期間中に疲れて走れないということはなかった。一方で、そういう中で走るときに求められる課題が浮き上がってこず、ミスをしても「緊張感がない中でのレースだからミスをするのだ、気をつければできるだろう」という甘い考えになってしまい、本番での失敗に繋がってしまった。

レース概要

クラシック

前半、それほどハイペースで走ったわけではなく、大きなミスをしたにもかかわらず50分弱で走れた。クラシックで結果を出すために必要なペースが大体認識できた。逆に後半はオリエンテーリングに集中するどころか、走ることさえままならない状態であった。

ショート予選

自分でも驚くほどのハイペースで入れた。このペースで走れれば予選通過できるという感覚が得られた。一方、後半はそのペースを維持できなかった。「このペースで行けばよい」という余裕よりも「このペースを維持しなくては」という焦りが生まれ、致命的なミスをしてしまった。登りで有力な外国選手に競り勝てた。

ショート決勝

レースを自分のいつものペースでコントロールできた。そのペースでは勝負にならないことがわかった。また相変わらず致命的なミスをした。ミスしそうだという雰囲気には気付けるが、そこで自分をコントロールしきれていない。

リレー

緊張感を切らさずに走れた。自分をコントロールしきれた。ヤブの中でのスピード、微地形でのスピードにトップと大きな差があった。

全体を通して

ユニバーでの4レースを通じて似たような傾向のミスをしてしまった。しかもそれが致命的なミスにつながることが多かった。そのミスは、大きな特徴物のない場所を通して、小さな特徴物へアタックしていくというレッグで、目の前にコントロールが出てくるようにアタックするのだが、実際行ってみると違うものが出てくるというものであった。このようなレッグでは、もちろんその特徴物へピンポイントで当てることも必要だが、それができなかったときにどれだけ早くリロケートするかという課題も重要になってくる。その途中にも特徴物となる小さな地形や微妙な植生の変化などがあるのだが、それらを特徴物として有効に使うことができなかった。どんな小さな変化でもそれに気付くことができるようにならなくてはいけない。

また、予想外のものが出てきて、それがどこかを判断するとき、自分がどこまで進んだかということを考慮できなかった。つまり、アタックの際に歩測はしているのだが、実際に違うものが出てきたとき、それまでの歩測数を使って自分のいる範囲を限定できず、いるはずもない場所を現在地だと判断してしまい、あらぬ方向へ進み、傷口を大きく広げてしまう。歩測をただ止まるためだけの1次元的な道具としてしか使えていない。空間の中で現在地を把握するための2次元、3次元的な道具として歩測ができるようになる必要がある。

さらに、ピンポイントで当てることが"難しい"という冷静な判断ができるようになる必要もあろう。エーミングオフを使えばうまくいける場所もたくさんある。そういう場面で冷静になれない理由として、目標達成のための具体性のなさが考えられる。例えばショート予選では序盤はいいペースで入れており、小さなミスを一度しただけで目標達成が不可能というわけではなかった。しかし、小さなミスに焦ってしまい、そのあとに続くレッグでは早く行かなくてはという焦りばかり生まれ、上のような冷静な判断を行うことができなかった。どのくらいのペースで走れれば予選が通過できるという目安を持っておき、そのペースで走ることを目標にするべきだった。その目安を妥当なものに設定することは難しいことではあるが、ただ闇雲に速く走ればよいという感覚では、結果はうまくついてこない。

ところで、今回のユニバーでもペナになる選手が何人かいた。地図に示されたコントロールを順番に回ってくるというのはオリエンテーリングの基本的なルールであるのだから、それがしっかり行えないというのはやはり問題があるのではないかと思う。高度なテクニックを習得する前に、もっと基本的な動作を見直しておくべきだと思う。

ほかにもいろいろな反省点があるが、多くのことは前回大会の報告書にも書かれている内容であった。前回の報告書を読んだにもかかわらず、同じような反省をすることになるのは、やはり想像力を働かせて報告書から多くのものを得ようとする努力が足りなかったからだろう。次回大会の選手たちには今回の報告書と前回の報告書を読んで、多くのことを想像してほしい。

今後に向けて

今回のユニバーは約2年前から準備してきた。といってもそのほとんどがユニバーに出るための準備であり、そのすべてがユニバー本番に結び付けられたかというと疑問が残る。しかし、2年間という長い期間を通して確実にレベルアップできたことは確かであり、長期的な目標を持ってトレーニングを行うことが、どれだけ効果的かということがわかった。

これまでの2年間にはインカレという目標もあり、十分なモチベーションを維持してやっていけたが、これからは必ずしも結果が出るとは限らない国際大会に対してどれだけモチベーションを高めて臨んでいけるかという課題もある。しかし国際大会の開催や海外選手・コーチの招待、北欧留学などによる国内選手への刺激は大きいであろう。この2年間だけでもそのような機会は多く、一昔前に比べれば、世界のレベルというものが想像しやすくなっていることは確かだ。今後も積極的に行っていくべきだろう。

そのためにももっと体系的に強化計画を実行していく必要があるのではないだろうか。学連、JOA、スコードといった枠組みにとらわれず、"WOCで入賞"のような1つの大きな目標のもと選手の育成や発掘を行わなければ、多くの選手が国内の成績だけで満足してしまい、日本選手内の競争がレベルの低いものとなってしまう。

私自身は、2004年のユニバー、2005年のWOCで入賞を狙える位置にまでいけることを目標としたい。


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