第14回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

加賀屋 博文
技術委員担当理事

コーチの報告


内容

  1. 選考会
  2. 強化合宿
  3. 出発までの準備
  4. トレーニングキャンプ
  5. 遠征中の業務
  6. レース結果と評価
  7. 次回に向けての反省と提案

1. 選考会

今回のユニバは通常よりも2ヶ月も早い、6月下旬の開催であった。 そのため、選考会を行う時期について苦慮したが、インカレや全日本前には選手選考を行うのはまず不可能なので、 通常よりも半月早い4月11日に開催し、2ヶ月余りの準備期間で臨むこととした。 その代わり,選手にもその日程を事前に理解し,選考会前からユニバを見据えた準備をしてもらいたいと考え, 前年の9月学連合宿で選考会の日程,12月のNT合宿(U23)では選考会後の強化合宿の日程を選手候補者に広報した。

選考会は世界選手権実行委員会の協力を得て、愛知県作手村「田原」で行った。 選考会上位4人と技術委員会の推薦により男女それぞれ2人ずつ選出したが、結果的には推薦は選考会5,6位をそのまま選出することとなった。 過去2回女子メンバーは5人であったが、今回は個人戦決勝レースが3日間連続し、 その上で最終日のリレーに体調を整えることを考慮して6人選出した。 また、選考会時点で出場が確定していない選手がいたこと、選手に現役学生が少ないことを考慮して,男女とも1人ずつ補欠を選出した。

選考会結果
男子
1 小泉成行 筑波大学大学院
2 西尾信寛 京都大学大学院
3 佐々木良宜 筑波大学大学院
4 寺垣内航 早稲田大学大学院
推薦 坂本貴史 筑波大学
推薦 新宅有太 京都大学大学院
補欠 川上崇史 慶應義塾大学
女子
1 番場洋子 京都大学大学院修了
2 姫野祐子 東北大学大学院
3 浅井千穂 京都大学大学院
4 原 響子 千葉大学
推薦 高野麻記子 筑波大学大学院
推薦 皆川美紀子 東京農工大学大学院
補欠 朴峠周子 日本女子大学

2 強化合宿

今回初めて世界選手権と同じ年の開催になったため、選考会後の4・5月に世界選手権参考レースが4本あり、 男女5人の選手が参考レースも走ることになった。 そのため、ユニバ強化合宿も参考レースにあわせて行うこととし、レース中心の合宿を多くした。

これまでなら選考会後に、選手が体力的・技術的にもう一度組み立てなおすことも可能であったが、 今回は4月から6月までもずっとレース期として技術的には微修正程度で臨んでもらうことになった。 その代わり強化合宿は選考会後の9週間で5回開催し、これ以上は不可能なくらいの密度で実施した。

その結果,短い期間ではあったが、逆に毎週のように顔を合わせることで、寄せ集めでは無い,チームとしての一体感が生まれることになった。

大会参加や合宿開催にあたり、以下の協会・クラブには大変お世話になった。 代表選手の活動に最大限便宜を図ってくれることは大変ありがたいことである。あらためてここで感謝したい。 また、世界選手権実行委員会からは選考会参加者一人あたり500円の返金をいただいた。重ねてお礼を申し上げたい。

京葉OLC、NPO法人オリエンテーリングクラブ・トータス、静岡県協会、愛知県協会、埼玉県協会。

第1回 4月18-19日 千葉県 18日「一宮砂丘」19日「蓮沼海浜の森」(京葉大会)
第2回 5月2-5日 山梨県, 静岡県 2日「瑞牆の森」(WOC参考レース)
5月3-5日「村山口登山道」「勢子辻」(NT、JWOC合宿と合同)
第3回 5月14-15日 静岡県 14日「砂沢」(WOC参考レース)「勢子辻」15日「こどもの国」(WOC参考レース)
第4回 5月21-22日 愛知県 「亀山城と武家屋敷」「切山」
第5回 6月4-5日 埼玉県 4日「秋が瀬公園」「四番金昌寺」5日「宇根峠」(東大大会)

3. 出発までの準備

3.1 大会エントリー関係

世界大学オリエンテーリング選手権(WUOC)は国際オリエンテーリング連盟(IOF)が主催しているWOCやJWOCとは異なり, 国際大学スポーツ連盟(FISU)が主催しているため,エントリーの手続きが多少煩雑となる。 全てのエントリーにおいて,日本オリエンテーリング協会(JOA)と大学スポーツ連盟(日本では日本オリンピック委員会:JOC)の承認が必要であり、 以下の手続きによって行っている。

日本学連(加賀屋)から依頼 → JOA → JOC → JOAがFISUに郵送

今回からJOAがJOCと同じ建物(岸記念体育館内)になったため、JOAとJOC間のコンタクトが容易になり,エントリー関係はスムーズに行われた。

ただし、公式にはJOCを通じて郵送されるはずのBULLETINが一度も届かなかったり(エントリーフォームは大会HPで入手可能だったが、 立入禁止範囲の地図は結局入手できなかった)、もともとのエントリーが遅れたりするなどの問題はあった。 例えば登録選手数は3ヶ月前に連絡しなければならないのだが,今回は選考会が2ヶ月半前だったのでそもそも不可能であった。 必要に応じて,直接大会事務局宛てにEmailで事情を説明するなどしてトラブルを未然に防ぐ対策をとっておかなければならない。 締切りの遅れについては,現時点では寛容である(日本はまだ真面目なほうだと思われる)。

なお、公式なエントリーは以下の3回である。 これ以外に、直前に選手の到着日時(航空機のフライトナンバー)を求められることもある。 海外初遠征の選手はパスポートの取得が遅れることがあるので、早めに手続きを促す必要がある。

GENERAL ENTRY FORM
出場するかどうかの意思表示、コンタクトパーソンの連絡(半年前)
QUANTITATIVE ENTRY FORM
出場選手,オフィシャルの人数(3ヶ月前)
NOMINATIVE ENTRY FORM
出場選手の個人情報(passport number,大学名など:2週間前)
3.2 選手派遣状関係

選手及びオフィシャルが勤務先や就学先に対して、長期休暇の取得や仕事・授業などで支障のないように便宜を図ってもらうために JOAから選手派遣状を発行してもらっている。 この点については,JWOCやWOCと同様の手続きとしている。 日本学連は任意団体であり,対外的に理解を求めるためにはJOAから発行してもらうことが必要である。

これとは別に,選考会当日に「選手認定状」を日本学連会長名で発行している。 選手派遣状の発行までは時間がかかるので,直ちに選手であることを証明する手段としては有効であると考えている。

4. トレーニングキャンプ

6月下旬開催で、各選手とも長期の休暇が取りづらいことから、トレーニングキャンプは2日間のみとした。 チェコのテレインは地図で見た感じの通りであり,北欧などに較べて対応に大きな問題ないと思っていたが、 レース後の選手の感想からするとロングの岩石地の多いテレインに対する適応ができなかったようである。 ただし、今回に関していえば事前にロングに近いテレインに入れる可能性はほとんどなかった (トレーニングに関してリクエストを出していたが、選択できる余地はほとんど与えられなかったため)。 ただし、20日の地元大会は会場に着いてからスタート時間を知らされたが,一番遅い選手で3時間以上スタートまで待たされることになった。 午前中に身体を動かして早く現地の時間に慣れたいと考えていたため,これは誤算であった。

6月20日 午前~午後 ポイント0(地元大会に参加:5km)

6月21日 午前 ポイントO(5km) 午後 レスト

5. 遠征中の業務

遠征中のコーチ(オフィシャル)業務については毎回報告書に同様のことを書いてきたので、項目を挙げておく。 今回は開会式後にピルゼン市長主催によるレセプションがあり、そこで他の国のオフィシャルといろいろと話を出来たことが印象深い。 英語力があれば、もっといろいろと情報交換が出来たのが残念。 来年世界選手権の開催を控えていることもあって、日本に対する他国の関心は高かった。

  1. 5.1. アクレディテーション(選手登録)
    FISUの役員による書類のチェック。 NOMINATIVE ENTRYの内容と、在学証明書(英文)、パスポートがあっているか確認する。 あとは登録費の支払い。 1人当たり20ドルで現地払い。
  2. チームリーダーズミーティングへの参加(大会期間中は毎日)
  3. 選手へのマッサージ
  4. その他

今回はトレーニングキャンプ期間も短く,レンタカーは必要ないと考えていたが, 尾上さんが遅れて到着することもあり,その際に1台借りてもらうことにした。 実際は,個人戦未出走の選手の交通手段、食べ物の買い出し,小泉が怪我をしたときの移動手段などに活用した。 オフィシャルトランスポートは用意されているが、1台は借りておけば融通が利くし,よけいなストレスを回避できる。

6. レース結果と評価

6.1. ロングディスタンス

ロングは91年の世界選手権クラシックのテレインで開催された。 昔の地図にコースを組んで地図読みを行い、その時に出走した選手の話を聞く、 ビデオを観戦するなど事前に準備を行って臨んだが,結果は厳しいものに終わった。 男子はトップの83分に対して,坂本が116分(140%)、寺垣内、新宅、西尾がそろって133~134分。 女子はトップ62分に対して番場が90分(146%)、皆川が97分,原が106分,浅井が128分。 ロングでは特に番場に期待していたが、残念ながら前回(129%)を下回る結果になってしまった。

全体的に成績が悪かった要因としては、移動直後で選手のコンディションが良くなかったこと, 岩石地と藪の中に置かれたコントロールに苦労したこと,長い距離に適応できなかったことが挙げられる。 このうち、長い距離のレース対する適応については、特に合宿などで準備しなかったので、チームとしての課題でもある。

目標とするトップ比120%は男子が100分,女子が75分となる。 このタイムは男子45位,女子23位に相当する。 体力的には不可能なタイムではないが、現実のパフォーマンスとして今回達成するのは厳しかった。 レッグごとのラップタイムを見ると男子選手は前半からほぼ最終順位に相当するラップであり, ミスというよりも巡航速度が不足していたことが分かる。 唯一,坂本がレースの中盤と終盤でそれぞれ40位前後のラップを連続してとっている区間があり, そのペースをレース全体で発揮することができれば120%が現実的になってくる。 女子では、男子に較べると番場と皆川は大きなミスをしているが、良いラップも出している。 特に皆川がロングレッグでトップの118%のラップを出したことは、 これまで日本選手がロングレッグを苦手にしていたことを考えると大いに評価できる。

6.2. スプリント

今回ユニバ初めての開催された種目であり、選手にとってもイメージの湧きづらかった種目であるが、 スプリントは大いにチャレンジしがいがあると感じられた。 結果としては、男子はトップ14分42秒に対して,佐々木が18分29秒(126%),小泉が18分58秒、坂本が19分50秒。 小泉が10番コントロールで足首を捻挫してしまい,以後ペースダウンしてしまうが、その時点ではトップと45秒差で111%であった。 女子はトップ15分58秒に対して,皆川が20分31秒(128%)、 高野はラス前で男子コントロールをチェックして失格(タイムは皆川とほぼ同じ)、姫野はコントロール飛ばしで失格となった。 失格が多かった点については後述するが、速いペースで次々とコントロールをチェックすることから、レース中に慌ててパニックに陥りやすい。 3人中2人も失格してしまったのは大きな反省点である。

スプリントのテレインは団地と公園からなり、特に団地の中を走る部分がテクニカルであった。 小泉は初めからスプリントを目標としてトレーニングを積んでおり、前半の走りはその成果が活かされた。 日本ではきちんとしたスプリントのレースは少ないが,テレインによる差がないので、トレーニングの効果が出やすい種目といえる。 ただし、後半の公園部分などでは単純なスピードが要求されるので,20位以内を達成するためにはベースとなる走力、 瞬発力だけでなく,トラックの3000mなどある程度の距離のタイムも必要とされる。 また、スプリントは大会によって公園,街の中,普通の山の中とあらゆるフィールドで行われる可能性があるため, 事前の情報収集も重要である。

なおユニバ初のスプリントということもあり,競技面ではいくつか問題があった。 まずスタート方式がセルスタート(バーを倒してから計時)でなく、 役員が肩をたたいてスタートする方法だったため,1/10秒の計時に対してクレームがつき、正式記録は1/10秒を切り捨てして秒単位とした。 その結果男女とも3位が2名となった。 さらに、男女のコントロールが同じディスクリプションに極めて隣接(10-15m)して設置されたため、失格者が続出した。 実に女子の25%、男子の20%が隣接コントロール通過などで失格となり、 レース後のチームリーダーズミィーテイングでは多くのオフィシャルから「明らかにルール違反だ」とクレームがついた。 コントロール記号を確認するのは選手の義務であるが,オリエンテーリングを単なる番号確認の競技になってはならない。 なお、隣接コントロールの規則は現状の最低50m以上離すことからもっと短い距離に変更される予定である。

6.3. ミドルディスタンス

チェコでは珍しい,微地形の部分をメインに使われた。 モデルイベントがミドルのすぐ隣の範囲であったため、モデルの感触からかなり適応するのが難しいと分かったが、 それは他国の選手も同様で、レースも荒れることが予想された。 結果は,女子がトップ41分を番場が58分(142%)、姫野が66分、高野が68分、浅井が82分。 男子はトップ37分を西尾が47分(127%)、寺垣内、新宅が55分、佐々木が58分であった。 上位選手のルートからは多くミスしていることが分かり(O-sport2004年第4号p33のルート図参照)、 レースは確かに荒れたが、日本選手はそれ以上にミスをしてしまった。 その中で西尾がトップと10分差,127%で走ったのは評価できる。 その西尾のレースもミスが多く,120%、44分台も十分射程範囲であった。 女子も番場が最後に大きなミスを連発したものの、終盤までは124%、30位台のスプリットであった。

上位の選手もミスをする難しいコースでは、明確なルートプランと集中力の持続が必要となる。 特に今回のテレインでは,ほとんどのコントロールには直進で到達可能であるが、単に真っ直ぐ進むというプランではなく、 明確に何をチェックするかというプランが不可欠である。 また、荒れたレース展開では多くの選手に出会うことになるため、安易に他の選手につられないためにも明確なプランが欠かせない。 男子で佐々木がショートレッグでベストラップを取っているが,追いつかれた他国の選手と一緒に走っていて, 彼らがミスして、佐々木だけがうまくコントロールをチェックした結果のベストラップであった。 このようなレース展開では、速い選手も当てにならない、という証明である。

6.4. リレー

今回,一番の目標として臨んだのが最終日のリレーであった。 前回の選手報告からチームとしての戦略が欠けているという指摘と、個人戦でミドル予選通過という具体的な目標が無くなった事もあって、 最初からリレーを優先したチーム作りを進め、1ヶ月前までにはメンバーと走順を決定した。 また、個人戦の出場種目もリレーでのパフォーマンスを考慮して決定した。

結果は、男子がトップと136%の18位(22か国中)、女子がトップと146%の14位(14か国中)であった。 目標からすると厳しい結果に終わったが、男子は最後まで他国と競い合って順位を上げたこと, 女子は過去最高のトップ比で3大会ぶりの完走を果たしたことが評価できる。 また、男子はスプリントで小泉が怪我をしたため,1走が小泉から坂本に変更になったが, 事前に怪我によるメンバー変更も想定していたことから、エース欠場の影響も最小限に押さえることができた。 女子も2走皆川が番場を上回るタイムで走り,その時点で6分差以内に3カ国がいるなど、リレーらしい展開に持ち込むことが出来た。

 しかし、これから上の順位を目指すのは容易ではない。 女子はトップ36分台のところ,皆川49分,番場52分。 1人50分平均で走っても順位は1つしか上がらない。 10位以内に入るためには1人47分、6位ならば41分が必要となる。 男子はもっと厳しく,トップ37分台のところ,佐々木49分,坂本、寺垣内が51分。 同様に1人50分平均でも順位が変わらないうえに10位以内には1人40分台、 6位ならば39分台でほとんどトップ争いに加わるぐらいのタイムが必要となる。

 今回は前回に較べて極めてスピードレースとなり、1走で集団から出遅れると、そのあと追い上げるのはほとんど不可能となった。 どこまで集団についていけるか、がリレーでのパフォーマンスにつながる。 これはユニバだけでなく,世界選手権などでも日本は同じ課題を抱えている。 日本は個人戦の成績に較べるとリレーが圧倒的に遅くなっている。 集団での競い合いを想定したトレーニングは多く積んでいるつもりであるが、実際の成果にはまだ結びついていない。 自分がオフィシャルランを走った感じでは、男女とも42-43分台で走るのは十分可能と思われる。 実際にレース後にもう一回走った番場は2回目ではあるがそのタイムで走っている。 1走(だけではないが)には経験と、国際舞台のリレーというプレッシャーを跳ね除ける精神力が必要となる。 特に集団で他の選手を利用して走るというスキルは、日本選手が身に付けなければならない最大の課題である。 この点は、ベースとなる走力向上に加えて、

徹底した競い合いのトレーニングが必要となる。 女子選手には男子のトレーニングパートナーとの競い合いなどを行うことがよいトレーニングとなるだろう。

7. 次回に向けての反省と提案

7.1. ロングディスタンス

ロングで、チームとしての取り組みが不足していることは前述したが、実際にロング用の長いレースを強化合宿で実践することは難しい。 長い距離をナビゲーションしつづけながら走ることのできるテレインが日本には不足していることもあるし、 合宿のメニューに取り入れると、ただコースをまわってくるだけの質の低いトレーニングになってしまう可能性が高く、その時期に行うのは効率が悪い。 スタミナも必要だが,世界の舞台で戦うためにはオリエンテーリングのスピードが必要であり,強化合宿ではオリエンテーリングのスピードアップに取り組みたい。 したがって,ロングを目指している選手は代表決定までにはベースとなる持久力を身に付けておいてほしい。 この部分は個人の取り組みにかかっている。 具体的には以下のような内容が考えられる。

強化合宿では、質の高いトレーニングを数多くこなして、オリエンテーリングの質のスタミナを育成するべきと考える。

7.2. ミドルディスタンス

スプリントの種目が誕生したため,ミドルはスピードよりも難易度の高いコースを組む傾向にある。 今大会でも男女ともミドルが最もキロ当たりのタイムが遅いレースとなっている。 私が参加した2003年の北欧選手権も同様だった。 テレインにもよるが,ミドルではコントロール付近での高い集中力の持続、直進だけに頼らないプランニングが必要となる。

そのためには精度の高い地図で難易度の高いコースを走る必要がある。 これまでは使うのをためらうような藪の中にも積極的にコントロールを置く必要がある。 日本での練習場所は限られるが,勢子辻の微地形地帯などをひたすら回るトレーニングは有効であろう。 日本のテレインで最大限難しいコースにおいて集中力を切らさず走りきれるようになってほしい。 そうして難しさに対して免疫をつけておくことで、海外での難コントロールに対しても自信を持ってアタックできるようになる。 また、難しいコントロールは外国選手、特にユニバ世代の若い選手にとっては自分たちと同様に難しく、 彼らもミスをするものだということも頭に入れておく必要がある。

7.3. スプリント

スプリントは公園、街の中、山の中とあらゆるフィールドで行われる可能性があるが、 いずれにしろ、瞬発力、ランニングスピード、すばやいルートチョイスが必要とされ、その代わりナビゲーションは容易である。 どんなところでも距離が短ければスプリントの練習になるという点で、最もトレーニングのしがいのある種目である。

技術的にはすばやくロスの無いルートを判断できるようになることである。 これは実際に追い込んで走る状態で行う必要があるため,数多くレースをこなすことが有効である。 スプリントの大会は少ないが,パークOの大会は多く開催されており,地図の表現を除けば良いトレーニングになる。

体力的には瞬発力の強化とランニングペースのスピードアップの2点が必要である。 公園などではレッグ間1分以下のコントロールがあるため、いかに速く自分のトップスピードに達することができるかが重要である。 山の中や街の中のテレインでは単純に長く走るレッグがあるため、絶対的なランニングスピードが必要となる。 スプリントのテレインは足場が良いことが多いので,公園やトラックなどのトレーニングが有効となる。 特にトラックが使えるのであれば,瞬発力育成のための短いインターバル(100m~300m)や ランニングペースアップのための長いインターバル(600m~1000m)又は3000mのペース走などを定期的に実施するのが良いだろう。 ただし、短いインターバルは故障の危険性も高いので,ウォーミングアップは十分行うようにする。 また、機会があれば球技などを取り入れるのも良いだろう。

7.4. リレー

競い合いのトレーニングが必要だということはここ最近ずっと言われており、 実際ここ2回は競い合いを中心としたメニューを積んではいるもののまだ成果には現れていない。 リレーでの結果が悪さは日本のオリエンテーリングのあり方(まずミスをしないことから教えられる)にもかかわっており、 それを克服するのは容易ではないが、継続的に取り組んでいかなければならない。

ユニバ代表になるような選手は、インカレでは他人との競い合いより自分のレースをすることが重要であるため、 国際レースの、他人のペースを利用したリレーでの走り方に慣れていない。 また合宿での競い合いといっても、相手の技量が分かっているため、精神的には楽な状態で走ることになる。

これらを突き詰めると、結局海外で経験を積むしかないのではないか、ということになるが、国内でもやれることはやっていかなければならない。 女子ならば、女子同士だけでなく男子のトレーニングパートナーと競い合うことが有効である。 男子はNT選手と競い合うことが必要となる。 今回からユニバが世界選手権と同じ年の開催となり、前のようにNT選手がトレーニングパートナーとして参加してくれることが難しくなったが、 NT合宿と合同で行うことによりその機会を確保したい。 集団で走るために必要なのは、走るスピード以外に集団のペースにあわせて地図が読めるようにすること、 大局的なプランニングは必ず行って、自分の位置がどこかで分かるようにしておくこと、である。 単についていくだけでは、そのまま隣接コントロールに連れて行かれる可能性がある。 また、自分の走力以上に速すぎるペースは自滅につながるため、どこまでならついていけるかの見極めが必要となる。

 また、リレーでは競い合いの部分だけを強調してきたが、実際には1走以外は1人でレースを行うことが多い。 日本のポジションが上がれば2走以降も競い合う機会は増えるが、それでも3,4走は自分のレースを行う必要が出てくるだろう。 この場合は他人との競い合う場合と1人でレースする場合の切り替えが重要になる。 相手のリズムに合わせて走る場合と自分のリズムで走る場合の切り替えである。 このような状況も想定したトレーニングを積む必要がある。

7.5. チームづくり

 今回は、男子は小泉、女子は番場というリーダーのもと、これまでにないくらいのまとまったチームができた。 「もう一回インカレがあるみたい」という選手の感想がそれを端的に表している。 これは、前回の代表選手が中心となって選考会前から多くの選手に声をかけて情報交換や意識高揚を図っていたこと、 準備期間が短いため逆に強化合宿の密度が高くなり毎週のように選手が顔を合わせていたこと、 そして一番はリレーでの成績を目標の一番に挙げていたことによるだろう。

 合宿ではリレーメンバーの決定や走順についてのミーティングに多くの時間を割いた。 選手には精神的な疲労も与えたと思うが、必要な時間だったと思っている。 また、まとめ役をつとめてもらった小泉と番場にも負担がかかったと思うが、積極的に動いてもらってコーチとしては非常に助かった。 リレーでの成績を上げていくためにも今回と同様なチームづくりを行っていきたい。 それはコーチから押し付けられるものではなく、選手自身の意欲にかかっている。

7.6. 強化合宿

 今回は期間が短いこともあり3週間に2回ものペースで合宿を実施した。 選手によってはコンディションづくりに苦労したかもしれないが、自分としてユニバはステップであり、 ユニバまでの期間をずっと強化期間として考えているので、質の高い合宿を多くの頻度で開催すべきと考えている。

合宿のメニューは基本的に、短めの個人レース+集団トレーニング(チェイシングインターバル、マススタート、リレー)という組み立てであるが、 今回は世界選手権参考レースにあわせて行ったこともあり、個人レースが多くなった。

集団トレーニングはリレーを想定したものであるが、個人レースはロング,ミドル,スプリントそれぞれの種目ごとに焦点をあてて考えていく必要がある。 また、いろいろと情報をいれて、より効果的なメニューを考えなければならない。 次回は8月開催であるので、もっと余裕があるが、これまで同様に2週間に1回のペースで合宿を開催する必要がある。 また、選考会前にも前年の秋と冬には情報発信と意識高揚もかねてユニバ強化の為の合宿を開催しておきたい。

7.7. 現地での過ごし方

今回遠征でオフィシャルとして一番の後悔したのは、到着日と翌日の過ごし方である。 自分自身の経験から、短期遠征ではこの時期の過ごし方が最も重要だという認識がありながら、結果としてはうまく過ごすことができなかった。 不可抗力な点もあったが、あらためて記しておきたい。

到着した日は宿舎に21時ごろ到着したのだが、夕食を近くのレストランでとったため帰ってきたのは24時近くになり就寝時間が遅くなってしまった。 また翌日も朝早く宿舎を出発したのに、会場で3時間近く待たされて昼過ぎの練習になってしまった。 さらに頼んだ昼食のピザも遅くなった(量も多かったが)。 これがロングで体調の不調を訴えた選手に直接影響したのかは分からないが,可能性は出来る限り排除しなければならなかった。 海外遠征では、到着した日に十分睡眠を取ること、翌日は午前中に身体を動かして早く現地の時間になれること、が重要である。

7.8. 強化体制とコーチング

前回に引き続き自分がコーチを努めたが、これ以上の成績を望むためには現在の体制では限界を感じている。 ユニバ合宿運営に加えて、ユニバのエントリー、WOC選考レースの運営なども行ったりして、 ずっと精神的に疲労を抱えた状態でいたため、結果として選手個人に対するコーチングはほとんど行わなかった(余裕がなかった)。 この時期仕事も忙しく平日の時間がほとんど使えなかったこともあるが,きちんと役割分担をしなかった自分の責任でもある。 今回、西脇、金子、田所、深澤は毎回スタッフとしてチームを支えてくれて大変感謝している。 次回以降は、合宿の運営全般と、コーチングの役割分担を明確にしていく必要がある。 そのような体制を組めるかはユニバを支えてくれる人材の有無にかかっている。 情熱のある人の積極的な関与をぜひお願いしたい。

また、ユニバを選手強化のステップと考えていることから、ユニバ後にせっかく育った選手の強化についても対応していかなければならない。 現在、ユニバの選手派遣は学連であるが、選手強化に関してはJOA強化委員会が一連のものとして対応していく考えである(私自身もJOA強化スタッフの一員でもある)。 この点はこれから道筋をつけていきたい。

7.8. 次回大会について

次回のユニバは,2006年8月14日から20日にチェコの隣国、スロバキアのコシツェ(スロバキア第二の都市)で開催される。 テレインは秋吉台のようなドリーネ地形であると思われる。 今回のチェコに較べるとテレインに対する対策は必要となってくるが、それだけにチャレンジのしがいもある。

種目は今回のユニバと全く同じで,リレーも4人制のままである。 日程が8月であるため,休暇取得やトレーニング期間に関しては今回のように短期間で集中的に行わなくてすむが、 暑い日本での夏の過ごし方などが課題となってくるだろう。 また、ユニバの直前、7月下旬から8月上旬にデンマークでの世界選手権があるため、セレクションや強化合宿などについて、今回と同様、調整が必要となる。 特に世界選手権を目指している選手にとっては、直後にあるユニバの位置づけが難しくなる。

目標設定は今回の結果を踏まえて個人戦はロング、ミドル120%以内、スプリント115%以内、 リレーは他国との競い合いをできる位置を走りつづけ,最終的には10位以内としたい。 初めてユニバを目指す選手にはこの数字は実感できないかもしれないが、 私やユニバ出場者からその目標を達成するための具体的なレベルについて発信していきたいと考えている。

日程
8月14日(月) 到着
15日(火) 開会式
16日(水) ロングディスタンス(各国4人)
17日(木) スプリント(各国3人)
18日(金) ミドルディスタンス(各国4人)
19日(土) リレー(4人制)、バンケット
20日(日) 出発

公式Web www.tuke.sk/obeh/wuoc2006

現在、日本の男女トップ選手のほとんどがユニバ出場をステップにして世界選手権出場を果たしている。 ユニバからはこれからも日本のオリエンテーリング界を支える人材を輩出してほしいと願っているし,それがサポートしてきた自分のやりがいでもある。


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