第14回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

新宅 有太
2003年度 京都大学卒

報告


内容

  1. ユニバーの感想
  2. ユニバーに向けての準備
  3. レースに対する評価
  4. 反省(今後のアドバイス)
  5. チームに対する要望
  6. 強化合宿に参加したものとして
  7. 今後の自分の目標
  8. 謝辞

データ

4月から6月出発までのトレーニング量を以下の表にまとめた。量が少ない。

距離(km) 時間(hours) 日数
4月 157.9 19.5 20/30
5月 157.1 25.4 17/31
6月 85.3 12.2 12/18

※6月は出発までの18日間のトレーニング

本戦で出場したレースとその結果を以下の表にまとめた。

種目 コース距離/UP Time Top time トップ比(%)
Long 14.4/430 2:14:40 1:22:58 162
Middle 6.7/250 55:10 37:27 147
Relay 7.37/240 52:05 36:44(最速) 142

準備段階での気持ち(私的なこと)

前回のブルガリアでのユニバーにも参加しており、今回は2回目だった。前回は自分の体が万全でなく、 次のユニバーで満足のいく走りをしたいと思い、2年間チェコに行くんだと言い聞かせてきた。 しかし、世界に通用する自分を作ることはできずに、まずは最後のインカレで結果がほしいと思うようになっていた。 そうしてインカレでほどほどの結果が出ると、気持ちの糸が切れてしまった。全日本までの2週間でトレーニングは2日だけ。 全日本は21E権が取れなかったらオリエンから遠ざかりそうだな、と思いながらどちらに転ぶかを試しにいった。取れた。 つながった、という安心感があった。そのあとは旅行を続け、ユニバーセレ1週間前になった。

「新宅さんはユニバーに行かなきゃいけない人です。 」という宮内さんの言葉があって、前回大会のあとの自分の気持ちも思い出してみた。そうして1週間体を動かして、 セレで今の自分のできるレースをしてどうなるかやってみよう、ということに決めた。結果は6位で行くことになった。 決まってから行きたかったんだということに気づいた。6位だったので気持ちはすっきりしていた。 こんな中途半端な準備のおれを代表にならせてしまうほど他の学生は遅いのか、という憮然とした思いがあったことも確かだ。 許田、加藤の両氏がセレを走らなかったとはいえ。

4月は、体をインカレ前のようにトレーニングをしている状態に戻そうと心がけた。その上でGWの合宿でガツンと走ることにした。

5月は、GWの合宿でイーキスの言葉を実践しようとして、ばらばらになった。 オリエンから逃げ出したかった。やめたかった。 最終日、走ることに意識が集中している自分に気づいて、ナビゲーションだけに集中することにした。 それで修正ができた。そこからは上り調子で富士の合宿も充実していた。次の愛知の合宿のレースでリレーのメンバーが決まるとあって、 気合いが入っていた。しかし身内に不幸があり、合宿参加は断念した。 気持ちも遠ざかってしまった。立ち直るのに10日必要だった。ロングに出ることは決まっていたので、 1回の走行時間を100分前後にしようと意識していた。

6月は、東大大会を自分の中でのテストレースにしていたが、全くふるわなかった。登りが走れない体になっていて、 ちょっと無理をすると壊れそうでこわくて、鍛えるというより、最低限の体を維持するだけになっていた。 やってやるという闘争心は増していった。出発直前は、そのときできる最高の走りをしよう、と思うことでよい緊張感を感じることができた。

準備段階での強化策(チームに関すること)

今回のチームは、女子に番場、男子に小泉というチームを引っ張る人がいたことが大きかった。男子はリレーで入賞することを目標に、 そのための走順を考え話し合った。前回に比べると、チームで取り組み戦っているというインカレ前のクラブのような雰囲気があって、 合宿に行くたびにポジティブで強烈な刺激を与え合っていた。次回以降もこういうチームとしての一体感を出していってほしい。

今回は直前にチェコ入りすることが決まっていて、その分日本でチェコ対策をしなければならなかった。その対策として、 91年のWOCに出場した選手一人にメンバーのうち一人がそのときのテレインの様子を聞いて、ML上でその話を共有する、ということを行った。 91年のWOCの映像も見てイメージを膨らませた。合宿までに各自でコースを組んできて、検討しあうこともした。 そうすることでわくわくしてきたし、チェコのテレインでの課題が見えてきた。WCの地図で地図読みをして主にロングレッグの対策もした。 こうして合宿でチェコテレインのイメージを作ることができたので普段の読図走が現実的なものになった。こういう取り組みは、 ともすれば目標を設定しにくく、課題もみつけにくい国際大会、外国のテレインに対し、興味をもって具体的な走りをイメージし、 闘争心を高めるのに非常によい方法であると感じた。情報収集をしっかりすることが大切だ。

行って変わったこと

一言で言うと、「おれもっと速くなりてー」そう思った。 それが変わったこと。そもそもアスリートとしてみたとき、自分は三流以下で、体が違う、もっと強い体を作らなければ、と思った。 スイス選手の腹はしっかり割れていた。 チェコ選手の足は太かった。おれのトリムの下がだぼだぼなのは足が細い証拠。 筋トレが必要だ、と強く思った。下り道を全力で走ったが、スイス選手にじりじり引き離された。 かけっこで負けているのだから、速く走れるようになる練習が必要だ。ロングはオリエン以前に距離に負けた。 ミスのあと急速に体が動かなくなった。不整地を1.5~2時間走りつづけるトレーニングが必要だ。技術的には、 アタックのときの進入方向をわかっていて、それに対する脱出方向をフラッグが見えた時点で確認し、スムーズに出て行く意識が必要だ。 脱出方向の確認はコンパスだけよりも特徴物を見ることと進入方向に対する方向感覚という2点を意識すべきだと思う。 これが自動化したとき世界レベルでの競り合いに参加できるようになるだろう。

今回は日本でリレーメンバーに至るまで出場種目をすべて決めていった。 僕はロングとMixリレー(代表でないチーム)に出ることになっていたが、スプリントで小泉さんがひどい捻挫をして、 急遽Middleに出場することが決まった。スプリントの日、レース後にまだMiddleに出るか決まっていない段階で、スプリントのコースをジョグでまわった。 そのときつい調子に乗って捻挫してしまった。 そのまま走りきれて、アイシングをきちんとしたが、夕方になるにつれ痛みが出た。 街で買い物をして帰るときにMiddleに出ることになるんじゃないか、と気づいてあわてて宿に戻った。案の定出ることになった。 食堂までの歩きでも痛みが出ていたが、走りたかったので痛いことは黙っていた。 結局翌日は痛みを感じることなく集中したレースができたのでよかったが、不用意であったと反省した。

現在の自分

帰ってきてすぐは、筋トレを取り入れて体作りを行っていたが、今は生活ペースが作れず、トレーニング計画も作れておらず、よくない状況だ。 HRM(心拍計)を使うようになったこともあり、自己管理をもっとしっかりするように変えていこうとしている。それと同時に、 やはり長期、中期、短期という段階ごとの目標と計画が必要だ。余談だが、水泳の北島康介は平井コーチががんばれば達成できる目標を常に掲げ、 それを達成してステップアップしてきた、という話がある。 現実味を帯びた目標の設定が大事である。

オリエンテーリングにとらわれるのではなく、まずアスリートとして、運動能力を向上させたい、強い体を作りたい、そういう気持ちに変わりはない。 全日本で21Eを走りたいと思うし、斜面や不整地に負けずに走りきる快感をレースで得たいと思う。

次の目標は決まっていない。

ユニバー2006を目指す人へ

僕は次回スロバキアであるユニバーを目指すかどうかは今の時点で決めていない。 こだわりをもつことで自分を縛るとプレッシャーでだめになりそうなので、意識もしていない。

学生としてインカレが目標であるうちはとにかく強い体を作るといった吹っ切れた考え方は難しいと思うが、 本番さえ速ければそれまでは何をしていてもよい、と考えを改め、スケールの大きな選手を目指してほしい。

2年間はあっという間だ。 資格があるみんなにユニバーを目指してほしい。行かないとわからないことは山ほどあるが、行った人の話を聞き、報告書を読み、 イメージすることはできる。世界の舞台で競うと、妥協なく自分の限界を目指そうと思える。 そういう体験ができるのは若い今のうちだけの特権だし、その舞台の入口はこれを読んでいる今、見えかけているはずだ。大切なのは意識する、ということ。 そう、とりあえず行かないより行ったほうが楽しそうだし、目指すことにしよう、と思ってほしい。

偉そうなこと言います

世界と戦えるためには、今の日本人トップにならなければいけない。 志の高い人が実力も兼ね備えて本戦を迎えてほしい。

ユニバーからWOCへとつながる強化策を打ち出していくべきだ。せっかくユニバー代表になって貴重な経験をしてきて意識を高く持ったのに、 日常生活に戻って刺激が自然と遠ざかることでやはり強くなるのは難しい。 いくら一人で速くなりたいと思っても、人に尻たたかれてやるほうが楽で無理なく伸びる。 だから選手相互間での刺激の継続をさせていかないといけないと思う。上のレベルを目指すには、 NT選手との練習機会をオープンにしてほしい。引っ張られて上を見る環境がないと伸びない。 誰かがやってくれることではなく、全員が参加することでできていく環境だと思う。強化選手がいるなら、準強化選手がいてもいい。 今のレベルから一歩上に上がる環境が多くの選手に与えられるべ

きだ。ひとつの方法として、日本学連がユニバー強化選手みたいなもの

を作って、学連合宿で選手に意識させていく方法があると思う。

他に思い出したこと

チェコのテレインは走りやすいと聞いていたが、日本の林のほうがよっぽど走りやすいと思った。日本は見通しの悪い低木や草が多いが、 地面はなめらかでタフさが少ないと思う。

外国選手は歩くのが速い。 宿泊棟から食堂まで毎日10分ほど歩いていたが、一緒に出てもすぐおいていかれる。 身長は僕のほうが大きい女子選手に対してもである。これがオリエンの速さと関係あるかはわからない。

バンケットに梅酒を持っていった。前回大会からの思いを実現させた。 しかしそれほどおいしいとは感じてくれなかったようだ。外国選手と話をするのは、英語力が足りないことでもどかしくはあったが、楽しかった。 世界には「オリエンティア」という人種がいるんだなあ、と感じた。

謝辞

今回、代表に推薦してくださり、合宿から現地でのオフィシャル業まで幅広く支えてくださった加賀屋さん、 同じくずっとチームに付き添ってこまやかな配慮をしてくださった寿理さん、 同じくずっとチームを見守ってくださり現地でレンタカーを借りて運転してくださった尾上さん、 そして日本で合宿の準備やトレーニングパートナーとして協力してくださった西脇さん、深沢さん、田所さん、 補欠選手として盛り立ててくれた川上君、朴峠さん、その他非常に多くの人に支えられて、 ユニバーの舞台に立て、貴重な経験を積むことができました。本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。

最後に、一緒にユニバーを目指したチームメイトへ、みんながいたことでがんばれました。 さらに上を目指して刺激しあえることを期待しています。


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