今年のユニバーは8月15日~19日、スロバキア第2の都市コシチェにおいて開催された。 今年の日本チームは、ユニバー、JWOCを含め、何らかの海外遠征を経験している者が大半で、 そういう意味では手馴れた雰囲気での大会参加であった。 ユニバーの大会は2004年の前回大会からスプリントが加わり、替わりにミドルの予選がなくなったため、 4日間連続で決勝レースが行われるという厳しい日程となっている。 そのためリレーでのパフォーマンスを考えて、個人種目は最大2つまでに絞ることで全員合意し、万全を期して臨んだ。
ユニバー年代の選手になってくると、すでに世界選手権に出場している選手も多く含まれている。 今年は例年と異なりデンマークでのWOC2006が、ユニバーより先に開催されたわけだが、 そこに出場した選手の何人かがそのままユニバーにも参加しており、スタートリストを見て見覚えのある選手に印を付けておくと、 その選手たちが確実に上位を占めるという状況だった。 その中でも女子ではチェコのDana Brozkova、男子ではリトアニアのSimonas Krepstaらの活躍が顕著で、 最後の個人表彰を独り占めしていた。
ロングとリレーはカルスト台地で行われたのだが、 石灰岩が雨で浸食されてできた大小さまざまなドリーネ(凹地)には一種独特の難しさがあり、 事前に机上練習はしていたものの、実際にトレキャンに入ってなかなか対応できずに苦労した選手も多かった。 それでトレキャン後に各選手にコメントを出してもらい情報を共有した。
本番でも、やはりドリーネの対応に苦労した人と、特に問題にならず対応できた人に分かれた。 異なるテレインに対峙したときに、どれだけ自分が基本に忠実にオリエンテーリングをやってきたかが分かるとも言える。 やはりやれることは基本の組み合わせでしかないのだ。
ロングでは、坂本が132%の好タイム。 早くから現地入りして練習しただけのことはある。 ドリーネは難しくなかったかと聞くと「ぜーんぜん」という答が返ってくるだけで自信を持っていた。 小野田が140%でそれに続いた。 優勝は男女ともチェコだった。 チェコは日本選手と同じ建物の同じフロアで毎日顔をあわせていたのだが、その日はチェコ選手が2倍も3倍も大きく見えた。
ミドルにドリーネはなく日本でもありそうな普通のテレインだった。 小野田が前日のレースで肘を痛めていたので、可動域を考慮しながらテーピングする。 スタートがまったくの牧草地のようなところだったので、フィニッシュがちょっとした綺麗な村の中に作られていてびっくり。 ミドルを目標に準備してきた西尾は、日本人ベストタイムながら不満足なレースで「4年掛けてこれか!」と残念さを隠せない。 「アグレッシブに走れたことは評価できる。 」反面、「ナビゲーションがうまくいかなかった。 レースとしてトータルでまとめる練習が必要だ。 」と早くも次への課題を口にしていた。 その西尾は途中で頭と指を蜂に指され心配されたが救護所で薬をつけてもらって大事には至らなかった。
ミドルで好走したのは米谷だった。 トップ比132%の47位は魅力的な数字だ。 ただし彼女自身も「ほぼパックだった。 」というようにかなり恵まれた展開だったようだ。 記録を追うと、まず2分後に1位選手、8分後に2位選手がスタートしているわけだが、 まずその1位選手に3~6番辺りを引っ張ってもらい、7番~11番は2位選手に乗り換えという感じになっている。 この走りを通じて「トップ選手の速さを体感できた。 脱出の早さもまったく違い、コンパスを見る回数など方向維持のやり
方がまったく違う。 」のだそうだ。 この経験が、次にどんな形で彼女のレベルアップにつながるのか楽しみである。
コースは予想どおり建物に挟まれた中庭のようなところからアーケードのトンネルを通って、いきなり目抜き通りに出るスタート。 数日前に散歩をして撮りまくった写真にコントロールになった場所がいくつも写っていた。 予想が大当たりだ。 フィニッシュエリアに移動した時には、皆川がもうフィニッシュしていて、6人の中では暫定トップだという。 一番上に日の丸が載っている間にリザルトボードをバックに記念写真を撮る。 結局最後までそれほど落ちずにトップ比110%の19位だった。
男子では高橋が同じく111%ということで、スプリントはこれから110%が一つの目標数字になりそうである。 男子の方は層が厚く、高橋の順位は42位だった。 コースは大半が市街地部分で一部公園に入って戻ってくるというもので、 あまりトリッキーなルートチョイスはなく、走力がかなりの比重をしめた。 途中、噴水の脇にコントロールが設置されていて、シールされていなかった地図ビニを外して走っていた今井は、 噴水で地図を濡らしてしまうというハプニングもあった。
坂本もタイムは高橋とほぼ同タイムでフィニッシュしていたのだが、ラスポの2つ前のコントロールの記録が無く失格となった。 本人に聞くと「観客の歓声がうるさくて音が聞こえなかった。 光は見ていない。 」という。 イベントセンターに戻ってから計算センターの責任者にユニットの方を調べてもらったがそちらにも記録は無く、 不完全パンチのペナはひっくり返らなかった。
ユニバーのリレーは4人リレーである。 4人であること以外にも1、2走の距離が3、4走より長いという要素があり、 メンバー選考もさることながら走順を含めた作戦が重要であった。 男子は国内合宿の時から選考レースや話し合いを通じて方針が固まっていた。 女子は皆川の長期遠征や石山の怪我などがあってなかなか決まらず、現地トレキャン中の話し合いで最終決定した。
リレーもドリーネ地形を含むコースであり、波乱が予想された。 まず女子はWOCにも出場したリトアニアのインドレ選手が先頭を引く形でスタート。 しかし中間に現れたのはロシアとハンガリー。 集団はばらけている。 そのまま1走はハンガリーが逃げ切るという意外な展開。 日本の1走の皆川は序盤で大きなミスを犯して遅れてしまい、中間ではまったくの一人旅となっている。 この後ハプニングが起きた。 中間を早々と通過した優勝候補のチェコの1走が後半で迷ったのか帰って来ない。 チェコのヴラチョバ女子コーチが心配する中を、トップから10分も遅れて帰ってくる。 致命的なミスだ。 こんなこともあるのかと改めてオリエンテーリングの難しさを知る。 日本は朴峠、千葉、森澤とつないだがリレーにはならず、結局、3走時点でウイニングランに間に合わないという厳しいレースになってしまった。 最後は4人がきっちり走ったイギリスがスイス、フィンランドを押さえて優勝。 チェコはアンカーのダナが10位から7位に持ち上げる快走を見せたが、それが精一杯で入賞を逃した。
男子は、1走の坂本が中間ではトップから1分遅れの集団の中で通過し、大いに期待が膨らんだ。 後半も粘って16位で2走にタッチ。 ユニバー3回目の西尾に期待が掛かるが、痛恨のミスで20位まで順位を落とす。 3走の高橋が快走して1つ順位を上げるが、4走茂木も不発で結局21位に終わり、昨年順位には届かなかった。
ユニバーは力を入れている国とそうでない国があることがわかった。 特にスウェーデンは国内選考無しで出場しているということで、個人戦では男子ミドルの13位が最高で、女子はリレーに出場していなかった。 従ってトップ選手はいるものの、中間層が薄いのは否めないので、順位よりトップ比を評価した方が良いだろう。 そういう頭でリザルトを眺めてみると坂本のロング132%、米谷のミドル132%、皆川と高橋のスプリント110%、111%はそれぞれ評価できる結果だろう。
今回のユニバーに向けて、各選手はそれぞれ強い思いを持って臨んだことだけは間違いない。 特に坂本は1ヶ月前から現地入りし、インターネットを通じてまだ日本にいるチームメートに、 トレーニングテレインの写真や生活関連の情報を流してくれた。 全員が現地入りした時に感じた安心感は、彼の活動によるところが大きい。 その他にも、皆川は3ヶ月の長期遠征、朴峠もWOCからの連戦、今井、茂木、高橋らは、 坂本と一緒にスロベニアでの大会に参加してドリーネ地形の練習をしてから現地入りするなど、各人が時間を掛けて準備したことが特徴的である。
WOCでは結果がすべてでありプロセスは関係ないが、ユニバー世代での取り組み姿勢は非常に重要で、 次世代を担うユニバー層の今回の取り組み姿勢は、将来への期待につながるものであったと言える。 JWOC/ユニバー/WOCの違いを比較してみると、次のようなキーワードになるだろう。
ユニバーは経験すれば良いというレベルではない。 ある結果を求めて挑戦する姿勢が求められる。 しかし結果を求め過ぎて、失敗を恐れたり消極的になってしまうことは避けなければならない。 これからユニバーに挑戦する人は先輩たちの事例を十分研究して、意義あるチャンスにして欲しい。
今後オフィシャルになる人のために、オフィシャルに関することも記録しておこう。 私自身、JWOCやWOCのオフィシャルは幾度も経験しているが、ユニバーのオフィシャルは3回目となる。 前2回は加賀屋氏が中心に動いてくれたのでお手伝いのみで済んだが、今回は1人だけだったこともあり、 選手に任せられることは任せ、本当に必要なこと「選手が余計なストレスを感じずに済むようにすること」に注力しようと思っていた。 特に初遠征の選手や、不安のある選手のケアを重点的に考えた。 そのためには情報収集やオーガナイザとの折衝が不可欠だが、そういう意味では、早くから現地入りしていた坂本からの情報は非常にありがたかった。
以下、今回行ったオフィシャル業務を列挙してみる。
これはオフィシャルの仕事ではないが、今年はJWOCに引き続きユニバーでもジュリー(裁定委員)を引き受けた。 IOFの競技規則に関心を持ち英語でのコミュニケーションがそれなりに取れる人なら、今後も積極的に引き受けると良いだろう。 同様に選ばれた他国のオフィシャルと話す機会も増え、情報収集のチャネルが太くなること請け合いである。
今回の遠征には私が同行したが、このユニバーチームを送り出すに当たっては加賀屋博文氏、西脇正展氏による継続的な努力とその活動があった。 選考会から遠征までの期間に開催した7回の強化合宿がその中心である。 この合宿はWOCやJWOCと合同で行ったものもあるが、その開催には地域クラブや日本学連技術委員会を初めとする多くの方々の協力を得た。 またその他にも遠征にあたっては、直接・間接的に多くの方々にご支援をいただいており、この場を借りて感謝したい。
次回は2008年にエストニアで開催される。 JWOC2003の時と同じ宿舎になる模様である。 JWOCでは、見通しの悪いやぶや湿地に悩まされた選手が多かったので、今年のドリーネに相当するものは次回は湿地対策になるだろう。 いずれにせよ目標とするに足るすばらしい大会になるのは間違いないので、多くの学生に挑戦して欲しい。