第9回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

村越 真
コーチ

報告書


内容

  1. はじめに
  2. セレクションまでのコーチング
  3. 強化合宿と狙い
  4. 渡航後のスケジュール
  5. 選手の準備とそれに対する総括
  6. 結果とそれに対する評価
  7. 全体的な総括
  8. 今後への展望

1.はじめに

ユニバーが終わった今正直に告白すると、私自身の遠征への思い入れはユニバーそれ自身にあるのではなかった。選手の個人的なコーチとして、あるいはナショナル・チームのコーチとして展開している方法論が、実際に国際的な場で成功するかどうかに大きな関心があった。もちろん選手権で好成績を残すことは大きな目穣である。それと同じくらい方法論的な探求も現在のわれわれにとっては重要なことである。

成功とは漠然とした言い方であるが、選手個人にとっては主観的ではあるがはっきりわかるものだ。自分はこれだけ努力と準備をしたのだからこれくらいの結果がでてもいい、あるいは日本ではこれくらいの成功感を味わっているのだからヨーロッパでもそれと同じくらいの成功を味わえること、くらいに定義できるだろう。チームのコーチとしてより少し具体的に定義すれば、ショートでは多くの選手の予選通過が見えるところ。クラシカルとリレーについては以下のとおりである。これは過去の成績を踏まえながら、「世界の舞台で闘う」ことを意識したものである。

方法論についての詳しいことは、資料を読んでいただきたい。

2.セレクションまでのコーチング

技術委員会が募集するコーチには応募するつもりでいたが、選ばれるかどうかに関係なく、オリェンテーリングのエッセンスに満ちたスイスヘ若い仲間たちを送りたいという気持ちはあった。そして遠征する以上は満足のいく結果を残してもらいたい、それには早くからの意識と準備が必要である。自分が個人的にコーチしている選手を中心に「ユニバーにいこう!」と言い始めたのは昨年の滋賀インカレの直後ころだったような気がする。そこから今回のユニバーへの選手強化がスタートしている。おおよそ概要がっかめている男子に対して、身近な選手以外はわからない女子は、これはと思う選手とコミュニケーションを持つ機会を夏ごろから積極的に作るようにした。

93年10月に学連とは関係なく「スイスのユニバーに行こう!」というビラを作成。選手のアプローチを始める。11月に選手の実カ・遠征可能性などによりABC3っのグループに分けてリスティングした。また有カな女子選手を集めて西日本大会の後合宿を行った。その後はインカレまではAへの明確な情報提供(練習の進め方、目標の設定など技術的なものを含む)とSWMを念頭においたアドバイス(各コーチとのコンタクト)、Bへのリクルート活動、Cの選手の発掘と底上げをおこない、結果として、高いレベルでインカレが競える状態を作ることを目標とした。

またインカレからセレクションまでは、ブレセレ通過選手へのPR、A選手のストレス下でのパフォーマンスを見る、個々の選手への特別なアプローチはしないことを原則とし、同時に有力と思われる選手には個々のコーチと連絡を取り合い、セレクションで最大のパフォーマンスができるように誘導することとした。結果的には、女子についてはインカレ同様、自他ともに認める選手がほとんど崩れなかったが、男子は予想以上に在学生が健闘した。

男子では対鹿島田比で+10%に卓弥を除くメンバー全員が入っており、その意味で決してつぼりあいのレースではなく、選ばれた選手が実カを出し切った結果のレースであることが分かる。成績で通過の松沢、山内は波はあるが、昨シーズンは全般に成績を残しており、スピード・練習量などをとってもポテンシャルを感じさせる選手である。ただ安定性という点で不安があるので、リレー用員として卓弥を推薦で選考した。

女子では金並、稲村は比較的安定したレースが司能だし、金田は集中したレースではミスのないレースができる。また千葉もプレッシャーのかかるはずのレースできちんと結果を出したことが評価できる。この4人の通過が決まって、十分チームが作れると感じたので、可能性はある反面まだ不安がある林・植田を選んだ。またリザーブとして志村を選んだが、緒局林が辞退することになり、志村が選手となった。

3.強化合宿と狙い

ユニバー独自の合宿として3回、セレクション直後にナショナルチーム強化合街に合流するかたちで1回、合計して4回の合宿をおこなった(詳細は資料参照)。前半の合宿(7月まで)では基本的な方法論を示し、それを実際のテラインの中で実行するという点を強調した。また後半(7月より)では、スピードアップやリレーなどの実際のレースヘの対応を重視した。また7月合宿ではヨルクをゲストに招いてスイスのオリエンテーリングについてレクチャーを受けた。これはスイス・ユニバーへの遠征をより日常的なものにするのにおおいに役立った。

また合宿では、ユニバーOB/0Gである田代氏、加賀屋氏、福士氏、金子氏、さらに藤井氏と石井氏のアシストを受け、練習環境を整えるとともに選手にはいい動機づけとなった。特に田代氏は全ての合宿にわたって参加してくれた。上記の諸氏にこの場を借りて感謝したい。

ここまでコーチングを進めた段階で困難な聞題が持ち上がった。現在私は文部省の命により他大学において内地研究をしている身であるが、研究場所について著しい制限を受けている(具体的には筑波大学をいかなる理由でも離れることはおろか、有給休暇をとることもままならない)。コーチとしてチームに随行することは不可能になった。幸いなことに、ユニバー後に開催されるオリエンテーリングに関する科学的シンポジウムについては招待講演の依頼を受けたことにより渡航が可能となった。それに先立って開催されるユニバーシアードの研究・データ収集上の意義が認められ、ユニバー期間を含めての渡航が可能となった。結局チーム随行の心理学者としてチームと行動をともにした。

4.渡航後のスケジュール

28 到着
29 移動
30 練習
31 練習 稲村・植田合流
1 休養
2 練習 鈴木合流
3 練習 稲村・植田合流
4 休養
5 モデルイベント・開会式 小長井合流
6 ショートディスタンス(晴天)
7 休養
8 クラシカル(午前中曇りのち雨)
9 モデル2
10 リレー(曇りのち晴れ)

5.選手の準備とそれに対する総括

練習量についていえば、例年よりも高いレベルが維持された。男子については目安としてあげた150-200km/月という水準はほぼ達成され、鹿島田や鈴木、松澤は5-6月には300に近い水準を縫持させていた。一方で女子は走り込み150kmをクリアできた選手は植田・金並のみであった(原稿を書いている時点で入手できた範囲で)。特に就職などの忙しく精神的にもめげる活動と平行させてある程度の練習を維持させたことは評価できるだろう。今年の夏が例年になく暑かったことを考えれば男子は非常によく準備したと言えるだるう。

内容的な面については、練習量の豊富な男子についてはほぼ全員がLSD・スピード練習ともに週1回から2週に1回の練習を定期的に実施していた。女子については残念ながら内容的な面まではクリアできなかったが、少なくとも個々の練習の目的を意識させることにはつながつていただろ。

オリエンテーリングについては、男子は合宿も含めて平均して週1日にちかい実施率であったが、就職活動・教育実習等を抱えた4年の多い女子は6月から7月にかけてのオリエンテーリング実施に落ち込みがあった。ただし夏休みあけである今回のユニバーでは8月に男女とも十分なオリエンテーリングができたので、問題はなかったようである。(詳しくは巻末の資料を参照されたい)。

6.結果とそれに対する評価

タイムの後の()内は各レースのトップに対する%。但しリレーは全体で2位になったタイムを規準にしてある。
(インデックス・ページにおいて代用)

1)ショート

女子では日本チームトップの金並で予選トップタイムの147%また男子では松沢がトップタイムの138%である。個人戦ならこれほ評価すぺき緒果だろうが、ショートでは金並がかろうじてボーダーにいるにすぎない。男子ではトップの120%まで、女子ではおよそ130%以内にはいらなけれぱ通過できないのである。しかし比較的先の見える結果であり、成功の可能性を示すという当初の日標を考えれぱ成功といえるだろう。

特に女子において、金並の緒果をみてもわかるように、もう一歩でAファイナルに通過である。35分程度で走った金田にとっても、予選通過のラインは決して手の届かないラインではない。練習をみてもまだまだ女子のオリエンテーリングはもたもたしており、改善の余地は大きい。もちろんそれを男子なみのきれのあるオリエンテーリングにするのは、コーチの方法論という点でも、選手の意識という面でもまだまだなすべき点は多いだろう。ばくち的なスピードアップによっで通過を狙うのでなく、普通にやって通過できる、そういうレベルを目指すことが肝要だろう。

レース内容を考えると、男子にとってまだボーダーはは遠い。今回の日本選手が走カ的に優れていたこと、また比較的そうでないと思われる小長井が予選でも決勝でももっともよい順位を確保していることを考えると、走る速さそのものではなくて、それをオリエンテーリングの中で生かしていくことが課題だ。

現在の学生オリエンテーリング界では、その競い合いの中でユニバーの予選通過に必要な無駄のないオリエンテーリングを身につけていくことは至難の業であろる。早い時期から世界をみすえて、学生の中だけでなく、日本のトップとの差について敏感になるようにコーチたちがしむけていく必要があるだろう。

2)クラシカル

他の種目に比較しても、また過去の成績と比較してもクラシカルは成功といえる。選手たちが日本で発揮している力をほぼその通り発揮した結果が今回の結果なのだ。しかし、そこまでたどり着くまでにわれわれはどれだけの努力と道のりをようしたことだろうか。喜ばしいことに、昨年あたりから、学生レベルでさえ、海外でのオリエンテーリングを特殊なものとしてでなく、日本でやっているオリエンテーリングの延長として捕らえることができるようになっている。今回の個人戦の結果は、これを世界の舞台ではっきりと形にしたものと言える。そしてこれだけの準備をしてきたからこれが当たり前なのだという自己概念を形成できたとしたら、この結果は歴史的にも評価されるものとなるだろう。

3)リレー

男手については、個人のタイムをみてもチームのタイムをみても、前回よりタイム比は悪い。その中で1走の前半で小長井がトップと5分差で走ったことは今後のコーチングや目指すべき方向の指針となるだろう。目標として掲げたトップと60分差はカッシーの欠場を考えにいれても15分程度及ばなかった。コ一スタイムが短いことを考えれば結果的に目標はまだ随分とさきにあると言える。

女子の個人タイムは前回より若干よいタイムであった。しかし個人戦の結果を考えると、より高い結果が望めるはずだ。1走金並が1番で大きなミスをしたことや2走の植田がコントロ一ル不通過のミスをおかしたことを考えると、個人的にもっている能力をリレーというプレッシャーの強い場面で生かすための練習が今後も必要であろう。

この意味で「レースをする」という目標に対する評価は、「達成できた」とも「達成できなかった」とも捉えることができる。失格を知らずに走った稲村までは競り合いこそなかったが、上にいたイタリアを十分捉えることのできる圏内にいたのである。しかし個人のカをリレーという場面で発揮できなかったことを考えれば「リレーの」舞台にば未だ立っていなかったのである。

男女ともリレーを闘うための準備は不充分であった。これは日本での合宿中も意識した結果でもある。それ以前になすべきこと(基本技術の確立)が多かったのである。リレーでは個人戦以上にスピードのコントロ一ルが要求される。そしてこの能カは、個人戦で更に上のレベルを闘う上で必要不可欠なものである(個人戦ではハイスピードを自発的に生成する能力が更に要求される)。個人戦でも使える「ハイスピード+コントロール」を強調したリレーへの対応が今後の大きな課題だろう。

7.全体的な総括

全体として考えるならば、今回のユニバー遠征は評価できる結果を残したといえるだろう。それは絶対的な性向ではない分、日本の選手たちがもっている力を初めて十分に発揮できたと言えるだろう。それがここ数年間の私たちの大きな目標であり、日本でも海外でもやるべきことは同じであり、連続性のあるオリエンテーリングを身に付けることを目標としてやってきたことを考えれば、それはほぼ違成されたと言える。

また今回は初めての遠征であり、直前の渡航である鈴木、松澤、稲村、植田、千葉がテクニカルなテラインにも関わらず全般的によく対応ができており、日頃のオりエンテーリングができたことも評価できる点である。もちろん絶対的に良い成果が出たわけではない。

しかしどこに失敗の原因があるかを日本での連続線上に捉えることかできる。鈴木も指摘するように、失敗の原因の多くは「厳密さ」の欠如にある。これは日本でも意識次第で十分に解決可能な課題なのである。また千葉のように地形読みへの集中の欠如が大きなロスにつながることも実感できたことだろう。

鹿島田の怪我はチームにとっても本人にとっても本当に痛いものだった。しかし、競技レベルが高くなれば怪我の危険も高まる。各国のエースが選手権を前にして怪我をするというケースはそれほど珍しいことではない。もちろん怪我や故障はないにこしたことはないことだが、彼の怪我も我々がより高いレベルを目指す上の避けて通れない試練と言える

成功の要因は以下のようにまとめられる。

1)学生全体にオリエンテーリングについての基本的な理解ができていたこと

これは、ここ数年のナショナル・チームの活動の大きな成果と言ってよいだろう。今回の選手のほとんどがこうした活動に接する機会の多い大学の出身者であり、多くの選手が練習方法や競技への取り組みについて基本的な理解ができていた。

2)秋のうちに合宿をもち、何を身に付けるぺきことを有力選手に周知しておくことができたこと

これは女子について、特は植田と稲村についてあてはまるだろう(他の選手は幸いにも日常から普遍的に通用する方法を知り、実践したり、今回のコーチと直接コミュニケーションをとる機会が多かったので、こうした問題は少なかった)。

半年もあれぱ、素質ある選手ならこの程度はうまくなれるものなのだ。これはここ数年のコーチングにも一般的に感じていることである。こうした選手の発見と育成はコーチにとっても楽しみであり、またチームにとっても刺激になる。

3)セレクションでこれはという選手が崩れなかったこと

これはむしろ結果かもしれないが、そう誘導することもテームづくりの方法論と言えるだろう。

女子はインカレ以来ユニバーまで、ほとんどコーチの予想したとおりの結果が出た。これは選手が十分に実力を発揮したことを示すと同時に、今回のようなコンタクトをとれば、コーチとして選手を十分把握することが可能なことを示している。

4)オーガナイザーと非常によくコンタクトがとれ、適切な情報を選手に流せたこと

4月以降10回以上のFAX送付に対して、オーガナイザは常に丁寧に対応してくれた。結局ブリテンも直接入手した。またヨルクによるスイス紹介もロコミによる情報源として選手にとっては何よりのものであった。これらにより向こうにいってからの心配が全くなかったことも大きい。まだまだ日本選手は遠征なれしていない。どんな状況でも不満をもったりストレスを感じることなく過ごせるようにはなっていない。遠征後の事務的な準備という点で、今回なみのものを常に期待することはできない。この点に関しては十分な心理的準備は必要かもしれない。

8.今後への展望

1)技術面
a)無駄のないオリエンテーリングをする

短いレースのみならずクラシカルでも体力面での練習量(あるいは走のスピード)と結果にはあまり相関が見られない。それ以上にレースヘの集中度や基本的な技術をどれだけ完全に使える状態になっているかがクリティカルな要素になっていたように思う。誤解を恐れずにいうなら、今日本選手の多くが取り組むべき課題は走力のアップではなくて、今もっている走カを最大限に生かすための技術(地図読み=リロケートの速さ、素早いプランニング)と、無駄のない集中したレースの探求である。もちろム今回の遠征メンバーが基本約に十分な走力を持っている選手を中心にしていたからこそ、それが言えるのかもしれないが。

ユニバー後に多くの選手と外国選手と話し合った感じでは、トップレベルのオリエンテーリングでは不安の全くないリロケートなど考えられない上位の選手でもそうした不安と闘っているはずである。それを打ち消すにたる惰報を常に用意しておいたり、ロジカルに考えることでその不安に拮抗するようなストラテジーが必要なのである。

b)レースに対する集中力の向上

特に生活面・技術面(なかなか成功が見えない、すぐ大きくつぼる)・精神面(インカレに比べてご褒美が少ない、多くの時間一人で準備しなければならない)での悪条件下でも集中してレースや練習に臨めるような状態を作っておくことが必要である、「競技に対する哲学」=自分にとってオリエンテーリングとは何なのか?が要求されるだろう。

これと関連する事項としてオフィシャルの必要性にっいてもコメントしておきたい。世界選手権ではオフィシャルは当然のものとなったし、ワールドカップでもオフィシャルの必要が指摘されている。確かにオフィシャルは選手の余計な心配や精神・身体的負担を軽減し、レースに集中する環境を作ってくれる。逆に言えば選手自身がレースから心をそらせるものを自分でシャットトアウトするカを持たなければオフィシャルのいる意味は半減してしまうのである。そしてレース直前になればオフィシャルにも制御しようのない様々な邪魔者がレースヘの集中を阻害するのである。オフィシャルを確保するのはチームの責任であるが、選手諸君には自己の責任としてレースヘの集中力を向上させるよう努めてほしい。この点は世界選手権レベルの(日本選手)に比べて未熟であるとの印象を受けた。

個々の選手を見ると、男手は練習量が抱負で準備状態もよい選手が今一つ勝負弱いという印象を受けた。メンタル面でのバックアップ(メンタル・マネージメントの紹介)などが必要だろう。小長井、山内は準備の度合から考えると結果が光る。逆に言えば他の選手の準備が本当に的を得たものであったかという点に疑問が生じる。遠征初回の選手はとりわけその教訓を次に生かしてほしい。

c)前シーズンからのチームづくりの必要性

セレクションが終わってから強化を始めても、コーチが提示する方法論を実践の中でいかす機会はほとんどない。前シーズンから選手と接触することで、選手は提示された方法を質の高い実践の中で試し、自分の技術を磨くことができる。学連としてもこうした体勢を確立することが、更なる成功への道だろう。

2)チームとしての準備について
a)事務的な準備について

事務的な準備に関しては、組織としての十分な対応ができていないと感じた。山川団長も指摘しているように日本オリエンテーリング協会側の対応の遅さなどは、スイスとの直接的なコンタクトができていなければかなり深刻な事態を招いたことを学連関係者も日本オリエンテーリング協会関係者も真剣に受けとめてもらいたい。学連側としては、根気強く交渉していく以外には手はないだろう。

内部の問題としてはチームと事務サイドとのコミュニケーションが十分に確立していなかった点は反省点である。少なくともセレクションが行われる前(全日本か早稲田大学大会くらいにチームの代表であるコーチ/団長と学連事務サイド(現在では幹事長がおこなっているが、仕事の分散が望ましい)および技術委員会メンバーのミーティングが必要であろう。

b)技術的な情報の引継ぎ

前回のコーチの吉田氏とはSQUADの活動で違絡を取り合う関係だったので、個人的に過去の資料などをもらいうけたが、本来は組織的に引き継ぐべき性質のものである。ナショナル・チームのように継続的な母体が機能していないので、次のユニバーのコーチが決まった時点で直接引き継ぐ形を技術委員会主導でとった方がいいいだろう。また一歩進んで「ユニバー担当コーチを次のユニバーまでを任期とする技術委員として、ユニバーへの継続的な対応をすることも望ましい。

c)セレクション

今回の選手選考では、インカレ優勝者は希望すればセレクションレースを待たずに選手として選考されることとなっていた。実際にこの規定で女子の金並が選手となった。結果としてのこの選考には全く問題はないが、インカレ優勝者を無条件で選考することには疑問を感じる。ユニバーの参カ資格が前年の卒業生にも与えられるとしたら前年優勝した4粘性はどうなんだろうという疑問の余地もある。

世界選手権と違い、まだインカレ優勝者が必ずユニバーを目指すような条件は整っていないように思われるし、インカレで常に絶対エースやそれに匹敵する選手が競う条件もまだできていない。4月以降緊迫したレースの機会の減る選手にとってもセレクションは貴重なレースと言えるだろう。以上の理由から、本規定が再考されることが望ましいと考える。

ある選手のコーチと話をした時に、選手がどこまで行く気があるのか、またチームとしてそれをどの程度考慮するのかが問題になった。世界選手権の選考では選考会に出場することは即選ばれたら行くことを意昧するが、ユニバーでは「自分の実力を試す」ために出場する選手も少なくない。特に女子にその傾向が強く、今回当初選考された林や植田はチャレンジ組だった。こうした選手にセレクション・レース直後に遠征の意志決定を迫るのは無理な注文であった。補欠を選ぶ余地もあったのだから、リスト発表後1-2週間程度の時間をとり、それから正式なチームの発表をしても遅くなかったと反省している。

d)選手の選考人数とオフィシャルの人数について

人数選考についての基本方針としてはトップとある程度以上の時間離れたら4人または5人にすることもあらかじめ考慮しておいたが、結局男子はトップからのタイムがつまっていたので最大枠6を選んだ。女子については実はこの基準は外れていたのだが、今後への思惑もあり結局6となった。選手自身も指摘するように、6人を選ぶことがベストな選択であったかは疑問である。より多くの選手を選べばオフィシャルの負担や経済的な負担が増すぱかりでなく、時にはテームの緊張感も犠牲になるからである。

またオフィシャルについては、コーチである私と団長である山川氏が正式に採用されていたが、滞在費と渡航費を完全に支出されたのは村越のみであった。またセレクション後東北大学の安斉氏がオフィシャルを希望したので、チーム内での決裁でトレーナーとして採用し、ユニバー期間中の滞在費の半額を支給した。オフィシャル3人の体制は、選手にとってもオフィシャルにとっても競技環境を整える上で大きな役割をはたしたと言える。とりわけ選手の年齢に近い安斉氏は、選手にとっても気安く話せる存在として、精神的な安定には大きな役割を果たしたと言える。最低限熟練したコーチ+若手のトレーナーの2人という構成が今後も望ましいだろう。今回は彼が独自の遠征を計画していた為、滞在費半額支給という無理な条件でも快くトレーナーの役割を引き受けてくれたが、金銭的にはこのオフィシャル構成には難しい点が残されている。

また今回はトレーニングテラインにはいっさいコントロ一ルの準備がなかったこと、遅れて到着する選手が多かったこと、怪我などのトラブルが多かったことなど練習・コーチング以外の仕事が多かったので、役員一人では完全に破綻をきたしたことだろう。選手の「わがまま」を聞いた上で、コーチや団長からの指示も適切にこなしていた安斉氏には選手を代表して深く感謝したい。


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