世界学生選手権大会、ユニバーシアード。
他の競技と同様オリエンテーリングでも、世界中の学生オリエンティアが隔年でしのぎを削っている。
そして今年、エストニアで開催されるこの大会に、新潟大学オリエンテーリング部OB(現ES関東C所属)の藤沼選手が出場する。
出国前の藤沼選手に胸の内を語ってもらった。
投稿・文責:古田島貴之
写真提供:O-News 様
黎明期
オリエンテーリングとの出会い
同じ学科の先輩が普及班(*1)長で、授業の前に(オリエンテーリング部の)ビラを貰い、説明会に行ってみました。
「最後まで説明会にいると晩御飯をおごってもらえる」と聞いたので、最後まで説明会に残っていたら、今の同期と出会いました。
そして、先輩や同期と話しているうちにイベント等に参加する事に。
(そのときは)ただのレクリエーションサークルという印象を受けました。
*1 新潟大学オリエンテーリング部(以下新大OC)内の係の1つ。
オリエンテーリングの普及活動(新大大会の開催、新入生勧誘等)を担当する。
オリエンテーリングをやってみて
山の中を(しかも道以外を)走るなんて!ワイルド!という印象でした。
また、直進や歩測、読図など、特殊なテクニックを使うのだなあ、と思いました。
当時僕はどれもできませんでしたが…。
説明会では「体力なくても大丈夫」「サッカーとか飲み会がメインだよ」と聞いていたので(実際にオリエンテーリングをやってみて)何だこれは!と思いました。
騙されました(笑)。
初めての山でのオリエンテーリングは5月のランクアップ合宿(*2)だったのですが、Yシャツとスニーカーで参加してしまいましたから。
ただ、最終日のレースで新人の中で3位になれたことはうれしかったです。
大学では、もう気楽に体を動かす程度にスポーツをしようと思っていましたが、やっぱり僕は本気で人と競い合うのが好きなんだなあ、と思いました。
*2 新大OCで例年5月頃に開催されている合宿。
多くの新入生は、この合宿で初めて本格的なオリエンテーリングを体験する。
学生時代
学生時代のトレーニング
基本的に毎日砂浜を走っていました。
他に、大学のキャンパス周辺にポストを置いた平日練習、防砂林を使ったファートレク、坂ダッシュ(インターバル)。
たまに、弥彦山や角田山でトレイルランニング(*3)。
毎週水曜は体育館でサッカーやバスケ、筋トレをしていました。
トレーニングはいつもきつかったです。
特に、夏・冬。
また、(フィジカル面のトレーニングだけでなく)夜な夜な地図読み会を開いたりもしました。
(大学の講義に使われる)教科書より地図を読んでいた時間の方が長いでしょうね…。
日々のトレーニング中は常にインカレのことを考えていました。
リレーで入賞すること、それが1番の目標であり、原動力でした。
1年生当時、あこがれていた4年生の先輩が、団体戦を走っているのを見て、目標にしました。
(そのときの)結果は残念ながら16位でしたが、僕はその(先輩の)姿に強く胸を撃たれました。
*3 フィジカルトレーニングのメニューとして利用される山。
日本海に面して、海抜ほぼ0mから山頂を目指す。
弥彦山は標高634m、角田山は標高482m。
過去に、新潟大学から角田山の麓の灯台まで走った上、灯台から角田山を登頂、稲島方面に下山、もう一度来た道を引き返した(つまり大学を出発し、2回登頂し戻ってきた)選手がいるという。
インカレ
2年生で初めて団体戦を走った時はチームの足を引っ張ってしまい打ちのめされました。
3年生の時は、鎌田さん(*4)もいるし、僕もミドルで入賞しているので、「きっといけるはず!」と思っていましたが、結果は惨敗でした。
最後の年は、「絶対に後悔しない準備を」と考え、やれることは全部やりました。
下の学年の追い上げもあり、チーム内でも競争が生まれ、非常に良い状態でインカレに臨めました。
迎えた本番は色々ありましたが、何とか6年ぶりの入賞をすることが出来ました。
最高の瞬間でした。
インカレの成績
・インカレロング:MF 21位(1年)、MUL 38位(2年)、ME 16位(3年)、ME4位(4年)
・インカレミドル:MF 41位(1年)、MEAF 33位(2年)、MEAF 4位(3年)、MEAF 9位(4年)
・リレー:ME 12位(2年)、ME 13位(3年)、ME 4位(4年)
インカレミドル2006
*4 JWOC2004ポーランド大会代表選手。
思い出
みんなと全国色々な所へ遠征しました。
毎年夏合宿へ向かう途中に、山梨の清里のソフトクリームを食べるのが楽しみでした。
あとは仙台で牛たんを食べたり、長野でそばを食べたり。
食べることが楽しみでした。
飲み会はいつも激しかったです(笑)。
トータス2006
国際大会出場を逃す
大学1年の終わり頃、JWOCのセレクションに出ようと思っていたら、卒業した先輩がユニバーを目標に頑張ると言いました。
それで、ユニバーを知りました。
ちなみに、その時のJWOCセレクションは9位で不通過でした。
(その後)大学4年の4月、(ユニバーシアードの)セレクションに出場しました。
その当時はあまり思い入れが無かったのですが、レース後は通過できず凄く悔しくなりました。
3月のインカレミドルで4位に入賞していたので、もしかしたらいけるかも?と思っていたので。
特に、3年生ながら選出されていた東大の茂木選手はうらやましかったです。
せめて補欠でもいいから、何かしら関わりたかったな、と感じました。
さらなる飛躍
大学を卒業して…
インカレを最大の目標にしていたので、インカレが終わってオリエンテーリングとの付き合い方を考えていました。
卒業し、関東に引越してきて、3月末に京葉大会に参加したました。
その時、加藤さんや高橋(善)さんに出会い、ユニバーの話や世界の話を聞くうちにもっと上を目指しみようと思いました。
仕事も始りましたが、トレーニングの時間やオリエンテーリングの時間は確保できそうだという感触もあったので。
加藤さんにいただいた過去の報告書を読んだり、NTメーリングリストに入れてもらったり、NT選手と一緒に練習や遠征をするうちに、自分も(ユニバーシアードに)挑戦してみたいという気持ちが強くなりました。
加藤さんや高橋(善)さん、渡辺円香さんに声をかけていただいのは、自分にとってターニングポイントだったと思います。
もし、声をかけていただけなかったら、きっとユニバーには出ていなかったと思います。
(皆さんには)とても感謝しています。
それで、ユニバーシアードに参加し、ロングでTOP130%以内、もしくは30位以内に入ることを具体的な目標としました。
大学卒業後、ES関東Cに所属
ユニバーセレクション
初日のスプリント予選は緊張で体が動かない割にはよくまとめられました。
一方、決勝ではミスを連発し、ショックでした。
2日目のミドルの前に「昨日の結果から(上位2名が立禁に入ったので)、代表に選ばれそうだ」と聞かされたので、ミドルでもミスを大きくしない程度に攻める走りをしようと思いました。
ところが、ミドルではそんなにミスしていないのに、トップに2分も差をつけられて3位となりました。
またまたショックでした。
代表に選ばれた時は、周囲(のユニバーを目指している選手の成績)と比較して妥当だと思いました。
しかし、NT選手とは差があり、この程度のレベルでユニバーに行くのは意味が無い、もっと強くならなければ、と気持ちを新たにしました。
セレクション
代表選出後
飲み会の席でしたが、慶応OBの川上さんに「正直、代表に選出すべきか迷った」と言われました。
自分自身も選考会の成績のままでは、ユニバーに行く意味は無いと思っていたので、ずばり言い当てられた気がしました。
もし今のままなら、もっと先がある学生が出場した方が良いでしょうから。
自分に求められていることは、「次へのステップ」では無く「結果」なのだと強く意識しました。
そのためには、NT選手と同等の力が無ければならないと。
そして、そのためには根本的なオリエンテーリングへのアプローチを変えていくべきだと思いました。
代表合宿
メニュー毎のコンセプトが明確で、1つの作業(例えば直進)を徹底して行い、身につけさせるような練習となっています。
良く有る普通の「サーキット」や「レース」というものはありません。
そのかわり、必ず何かしらのポイントが有ります。
メニューバリエーションも豊富で、合宿毎に違うメニューが用意されています。
参加者の意識が高く、自然と走るペースも上がります。
なにより、NT選手もいるので、アドバイスやランオブを受けることができる(すばらしい環境です)。
決して、練習量が多いわけではないのですが、だらだらやらずに、1本1本集中して行っています。
(コースは)テレインの特徴が生かされていて、良く練られているな、という印象です。
また、海外で実際に設置されている様にコントロールが置かれているのでしょう。
アタック方向からは(岩の裏や藪の中などで)見えない様に設置されています。
チームメイト
合宿、大会ではチームメイトと常に競い合い、選考会の時よりお互いにレベルアップできたと思います。
皆、とてもモチベーションが高く保たれています。
もちろんそれは、合宿や大会だけでなく、普段のトレーニングでもそうだと思います。
実は、米谷さんが怪我のため欠場することになってしまいました。
僕自身も1月にちょうけい靭帯を痛めてしまい、3月まで全く走れず、全日本はおろか選考会も出場できるか分らないほど苦しみました。
怪我をした米谷さんの分まで頑張ろうと思います。
ユニバーシアード
目標
・ロング:欠場。
・ミドル:TOP比130%以内または40位以内
・スプリント:TOP比110%以内または20位以内
・リレー:理想…8位以内
現実…12位以内
最低…2年前の記録を上回る
3走の予定です。
1走:高橋雄哉、2走:日下雅弘、4走:小山温史の予定。
・海外の知り合いを作る!
エストニアの印象
藪と湿地と微地形。
なぜか「現地の対応は何とかなりそう」という気持ち(希望?)も有ります。
4年前のJWOCでは、日本人選手は非常に苦戦したという話を聞きます。
1kmのコースに90分かかったとか…。
楽しみなこと
海外の選手にも、日本の人にも印象に残るような走りをしたいと思います。
積極的に、守りに入る事無く、エストニア(のテレイン)に合致したオリエンテーリングをしたい。
その瞬間はきっと、最高でしょう。
海外の選手と話すことも楽しみです。
特に、ルート、普段のトレーニング、オリエンテーリングに対する考えとかを聞いてみたいと考えています。
英語はあんまりよくわからないけど…。
また、海外選手の走りを間近で見たいと思います。
「ありえないスピードだ」とよく聞きますが、どのくらいなのか、実際に確かめてきます。
とにかく、何もかもが未知のものなので驚きや発見の連続でしょう。
ヨーロッパ、エストニアの町並みとか文化にもふれてきたいと思います。
抱負
初の海外遠征、自分のオリエンテーリングをぶつけてきたいと思います。
上手くいかないことや、打ちのめされることもあるかもしれません。
でもそんなこといくら考えたって、仕方ないので、自分の出来ることを最大限にやってきます。
そうすれば自ずと結果はついてくるのだろうと信じています。
その中に、きっと新しい発見があるでしょう。
また新しい景色が見えるかもしれません。
応援してくれる皆さんへ
精一杯頑張ってきます。
あと、怪我には気をつけます。
最初で最後のユニバーシアード、思う存分楽しんできます!!!
一国の代表としての意識とともに。
投稿者より
藤沼選手の熱い思いを感じてもらえただろうか。
大会はエストニアのタルトゥにて7月28日〜8月3日の日程で開催される。
皆さんも、ぜひユニバーシアードでの藤沼選手の活躍にご注目いただきたい。
頑張れ! 藤沼選手!!